記憶が生むもの
エルメス
未来があるから、過去がある。過去が無ければ、未来は無い。
人間は、記憶する能力を持っている。記録ではない。記憶だ。
それは、時に、記録よりも曖昧なもので、時に、記録よりも鮮明なものとなる。
注目すべきは、記憶の役割だ。
一つは、過去を振り返ることだが、もう一つある。
それは、過去を認識するということ。
過去を認識することで、現在を認識することができる。
そして、未来をも認識することができる。
つまり、人間は記憶によって時間という概念を得ているのである。
もし、人間が一切何も記憶しない生命体であったなら、「時間」という概念は存在しなかった。
時間は記憶の産物である。
同様に、性格についても、記憶が関係していると考えることができる。
人間は、無意識のうちに、過去の記憶を呼び起こし、それをもとに考え、自らの行動を決定する。
このはたらきは「学習」とも呼ばれる。
この学習が、対人関係にも作用しているのは当たり前のことだ。
どうすれば、相手を笑わせられるか。どうすれば、相手を慰められるか。何を自分は望んでいるのか。
その時々の自分の感情も織り交ぜながら、記憶に基づき、言動を決定する。
性格とは、行動・言動のパターンを抽象化したもの。
すなわち、言動が性格を決定する。そして、記憶が言動を決定する。
つまり、記憶は性格にかなり深く関係してくると言えよう。
勿論、遺伝子などの影響もあるから、一概には言えない。
しかし、そこに記憶が深く介入してくるのは事実である。
記憶は心の一部だ、と言っても過言ではない、と思う。
「全てから解き放たれたい」「全てを忘れたい」という台詞をたまに耳にする。
しかし、忘れてはならない。記憶からだけは、解き放たれてはならない。
それは、自己の喪失を意味するのだから。