剥奪されて自由
川口 掌
そろそろ年かなぁ
そんな思いを抱えながら前足を丁寧にペロペロと掃除する
生まれた時にいただいた名前は清四郎
炬燵の中や庭先の陽だまりの中で寝ていても
この名前を呼ばれると
一先ずは頭をあげて呼んだ相手を睨んでやらねばならない
三軒向こうのマーシャと恋仲になった時は
清四郎とは別に
好き者だとか色男
なんて呼ばれ方もした
初めて鼠を捕まえた時から少しずつ
道端をぐるぐる回っていた雀を銜えて帰った頃からはちょくちょく
ハンター
などとも呼ばれるようになった
マーシャが子供を産んでからは
パパとかお父さん
なんて呼び方も加わった
月日と共に新しく加わっていく呼び名は
全部俺の物だ
増えていく呼び名のどれで呼ばれても
一先ず頭をあげて呼んだ相手を睨みつける
これが俺のライフスタイルだった
一時機
我が家の近くの虫や鼠が
どう言う訳かやたらと増えた
あっちの鼠を追いかけていると
目の前を虫が通り過ぎていく
こっちの虫を追い詰めた瞬間
脇を鼠がうろうろする
そんな事が多くなった
気が散って虫も鼠も捕まえられなくなる
俺の名前からハンターが消えた
気が楽になった
呼ばれもしないハンターをやらなくてもよくなった
なにかのきっかけで
次々に俺の技が消えていく
名前を維持するために
やっきになって働く事もなくなった
俺に清四郎と名づけた
父ちゃんもこの前にあちらに行った
何をやるのも自由になって
皆の心から俺が消えて
俺は解放されていく
名前を無くして自由気ままに
皆の心から
そして俺の心から
俺の全てが消える時
俺の姿も消えて
本当の自由を手にいれよう