フェアウェル
ホロウ・シカエルボク






どんなかけらもここには残らない、あなたの涙が乾いた地面にさらさらと染み込んでも
誰が気にとめる間も無く風に踊り始めてしまう

あなたは自分が無力だと知る、思惑など所詮は身体を伴わないひとり言のようなものなのだと
濡れたことなど気づいてもいない砂が
わずかに地形を変えるのを見ている

その昔、僕らは純粋だったと言う、だけどそれは嘘で
それはただ無知であったというだけのことなのだ、知らなかったが故に
何も
見ないで居られた
僕らは純粋ではない、僕らは少しも純粋ではないけれども
少なくともそこに向かおうとする試みの確かさを知っている、たかが言葉に震え
たかが音楽に震え
塗りたくられた色味なんかを見て涙を流す、はは
それは決して保証されない魂のようなものでしょう、気持ち良くしてくれるなら
それが嘘でも構わないんだからって実際思っているでしょう?

本当のことなんか判らない、僕はあなたを疑う
あなたは本当は僕のことを嘲笑しているんだと思う
あいつはくだらないことばかりに心血を注ぐろくでなしだって
声が届かなくなったところで言ってるに違いないと思う
本当のことなんか判らない、心より外に出すことがない思いの中でなら
僕はどんな裏切りを働いたって良い

はるかな景色の中に高々と煙が上がっている
その煙の根元には何があるのかなんてちょっと想像がつかないけれど
もしかしたらあれは2009年の冬なのだ
2009年の冬が荼毘に付されているのだ
僕は火葬される今年の冬を思う
熱と煙にまかれて天に帰ってゆく今年の寒い冬を
その傍らで涙を流すものなんか何処にも居なくて
ただ天に帰ってゆく今年の冬のあっけなさを
彼らの記憶は新しい雪までもつことはない

落度の数を数えて過ごした
他に誰を責めることも出来ない落度の数を
明かりを消した天井をじろじろ眺めていると
いつかそれに押しつぶされるような気がした
どんなかけらもここには残らない、野に放てない思惑が歴史に近い数の砂にろくな乱れもなく飲み込まれて消える
消失
荼毘に付されることすらない今日の死体
見送ることすら出来ないままの死体の思念がブランケットの上で石柱のように固まる、ふうう、ふうう
肺がうまく空気を吸い込むことが出来ない
潰されたままになってしまってどうにも膨らまない
それは幾億もの死の重みなのだろう
僕は取り返しのつかないものをたくさん殺してきたのだ、きっと
(だけど誰が気にとめるまでもなく風に踊り始めてしまう)

見送られたいのだ、おそらくは
惜しまれて見送られたいのだ
2009年の冬のようにではなく
通いあって愛されたいくつかの関係のもとに
僕の為に歌ってください
僕の為に歌ってください
僕の存在が報われてゆくのを
乳母のように見つめてください
悲しんで、それから
(あのひとはあれでよかったのだ)











自由詩 フェアウェル Copyright ホロウ・シカエルボク 2009-02-19 00:54:16
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