私たちは夢の中で
石瀬琳々

夢の中で私たちは
幾度もくちづけを交わした
あなたの唇はいつも濡れていて
舌を入れると海の味がした
まるで水中深く落ちてゆく
立ち昇る泡が遠く遠く輪を描いて
はるかな岸辺へと


夢の中で私たちは
幾度も別れを繰り返した
つないだ指を一本ずつほどいては
見つめ合って遠ざかった
何も言わないで唇だけで別れた
さよならの形を試すようにしては
ぬくもりを確かめるようにしては


夢の中で私たちは
幾度もいだき合った
あなたの鎖骨が光って夜を照らす
まぶしくていつも目を閉じてしまう
目を閉じれば潮騒が聞こえる
耳を澄ませば海流がなだれ込んだ
いつでも海があった


夢の中で私たちは
何度も何度もすれ違った
ある時は他人のふりをして
ある時はどこかで見たような顔をして
振り返りはしなかった
異人のように視線が合っても
淋しさに口をつぐむ事があっても


夢の中で私たちは
名前も顔も知らなかった
声も唇も指先も知らなかった
まだ出会ってさえいなかった
愛という言葉すら知らなかった
私たちは今もなお





自由詩 私たちは夢の中で Copyright 石瀬琳々 2009-02-18 13:45:23
notebook Home