ひよこ
千波 一也



ひよこを食べる猫がいて
あるときひよこが
噛みついた

それからひよこは
猫を食べたり
ときどき親を
食べたりも
する



ひよこをだます猫がいて
おかげでひよこは
言葉を覚えた

周りと少し
意味のちがう
言葉がひよこに
染みついた



ひよこを育てた猫がいて
ひよこはそこに
ゆめを見た

ゆめ見たひよこの中からは
画家がうまれて
詩人がうまれて

やがて
それらは
芸術となり
貴族のひよこがあらわれた


ゆめの形は、
はじめての
ゆめの形は
ゆっくり
ゆっくり
さびしくなった

やさしくなった



ひよこは空を飛びたくて
小さく小さく
願い続けた

それゆえひよこは
いまだに小さく
けれど絶えずに
うまれ続ける


自由な羽毛の
きいろは
ひかり

ふわふわ
自由な空をゆく



ひよこは空を知りたくて
かなたの自分を
思い描いた

その行いが
ひとつの翼であることを
ぽつり、と広く
笑う庭から



ひよこはいつも
ひよこであるのに
それが意味するところは
ときどき難しい

やさしくなくては
ダメかもしれない
やさしいだけでも
ダメかもしれない

ひよこは
ひよこ

いつもの、
いつもどおりのひよこ

だからきっと
簡単には間違えないし
簡単には見つからない



ひよこを語るひとがいて
ひよこはひよこを
やめられない

代わりにこっそり
逃げたりしても
ひよこは
ひよこを
やめられない










自由詩 ひよこ Copyright 千波 一也 2009-02-18 13:10:12
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