通り雨透き通った虹
楽恵

野球場のフェンス越しに
鈍く湿った風
予感の匂いに満ちたアスファルト
屋上と屋根の向こう側
午後の光を遮断して
雨粒いっぱい雲が来る
金網をつかみ取り
いちもくさんに飛び降りる
私の制服のスカートは長くも短くもない
羽虫が行ったり来たりしている
草叢を踏みしめ小さく刺されながら
プリズムのアーチが架かるか
待っている
じっと立ち尽くし
思い浮かべる
アーチのいちばん外側に
暗く澱んだ影がある
真っ黒な雲の中にある
ぜんぶ持ってかれている
集められている
雲に捕らわれかけられる
汗に水滴が混ざり始める

半円の兆しは現れない

私にはかつて友達や恋人がいたかもしれない
でももう忘れてしまった

空に潰えた渇望の痕に
啓示だけが残っている


自由詩 通り雨透き通った虹 Copyright 楽恵 2009-02-17 22:36:27
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