夜辺
木立 悟





這いつづけ
水にたどりついた樹が
土のはばたきを抑えている
それでも幾つかは
飛び去ってしまう


石も川も敬いも
大きさを失いさまよいはじめ
幸せもなく 不幸せもなく
はみ出した分だけかがやいて消え
ただあるがままの粉の冬でいる


あらゆる方向から小指にからまり
よろこびに浮かされる片方の手足
金属の雨のなか聞こえくる
畏れ うた 震え
畏れ うた 震え


降る雪のひとつひとつに
触れるたびに歩みは燃える
つむる目の内
痛みは灯る
つむる目の奥
背は揺れ動く


黒の前を過ぎるこがね
片方の目で追ううちに
曇の火 吹雪の火にたどりつく
熱と向かいあう
やわらかな平衡をはさみ
熱と見つめあう


鏡と水と鉄のはざま
無数の言葉を失くしたその場所
砂の単位 波の単位
人に関わらず生まれたもの等の
暗がりが擦る明るさを呑む


かけらに手を添えるたび
かたちは甲に浮かびあがる
尽きない業のみなもとへ
土のはばたきははばたきのまま
つぼみの息を連れてゆく






















自由詩 夜辺 Copyright 木立 悟 2009-02-17 20:41:00
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