オルゴール
るか



ぼくたちの鳥は、預けられたまま
誰もいない部屋の
つめたい鳥かごのなかで
ひくい声でうたっている
透明なガラス瓶と花
傾いたテーブルは沈黙で伴奏し
薄いカーテンから秋の日が
名残惜しげな温もりを
壁面や 床に伝えている


( ここにはない ここにはない )


響いているのは
ぼくたちが
いつの間にか忘れ去った
天使の童謡のリフレイン


あの なにげない殺戮の
あいだじゅう ぼくたちの鳥は
歌いつづけていた
囁きつづけて
いた


言葉を奪われた、ぼくたちは
まだ話せない子どものように
林檎の涙を零すばかりで
プラスチックの玩具に
涙の粒が落ちる

そこにあの子の姿はなく
からっぽの部屋のドアを叩くのは
文字の消えかかった
表札ばかりで


それから
うたう鳥の羽根をつつむ
手のひらのような物語を
ぼくたちは捜して
からっぽの心に
広がる草原のうえに
鳥を放してやりたかった
かごをひらく合鍵を
やりきれない自由を浮かべる
空の
どこかに求めて


ぼくたちの鳥は、預けられたまま
誰もいない部屋の
つめたい鳥かごのなかで
ひくい声でうたっている


言葉を奪われて、
ぼくたち は
ただただ 獣のように
呻いては
果てて
ゆく


(この幼生の独白は/いつか
意味を/帯びること/が
できますか )


せつないぼくたちの
あこがれ





自由詩 オルゴール Copyright るか 2009-02-17 09:10:15
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