〔草稿〕人形の季節
小川 葉
あなたはセーラー服であらわれた
わたしも学生服であらわれた
もう高校生ではなかったけれど
二人は約束の場所にいた
店にいた高校生が
みるみる生まれたばかりの子供になって
お父さんとお母さんと一緒にいた
えいこさんはあの頃みたいに若くて
厨房からは亡くなったはずの
旦那さんの声が聞こえていた
あなたはセーラー服がちょうどよく似合う
顔と体つきをしていて
わたしも学生服がちょうどよく似合う
顔と体つきだったのかもしれない
そんな冬があった
あなたは上智大学に入学して
卒業してからは外国語と関係のない生活をした
あなたがわたしと出会ってからも
外国語以外の言葉だけで二人はわかりあえた
ときどき言葉がなくても
わかりあえるような気がした
そんな時ふたりは
えいこさんのお好み焼き屋に
セーラー服と学生服であらわれた
ひとつの言葉も残っていないのに
言葉でしか形にすることのできない
記憶の中にしかわたしたちはいなかった
思い出ってこういうことよね
わたしはあなたを
人形にしてしまいたかった