夜航
山中 烏流




超えていく、
日付の壁が
目まぐるしい程に光るのを
横目で蔑みながら
今日の境目を探す

誰も、私のことを
見てはいないから


急いで履いた靴下を
だぼつく
という理由だけで、振り落とす

面倒なら既に慣れたであろう
あの、三日月の湾曲に
覚えたものは
どうしようもないいやらしさ



布団が船になり
夜風に満たされた部屋で
渡航の仕方を思い出す

星の照明は
綺麗過ぎてしまうから、要らない
代わりに
小さな蝋燭を手にして
行く先を睨み付ける



風が、生温い

流行り廃れた言葉を
無邪気に甘える子供たちへ
吐き捨ててみる

意味が分からないまま
それを受け止めたひとは
顔を赤らめながら
湖に
飛び込んでいってしまった

私は、その様子を
こっそりと
覗いているだけで
それ以上の何かを
することはない


日付の裏側に
両手を伸ばしたら
自らのそれと、よく似た手に
弾かれてしまった

真ん丸に開いた目を
突き刺す視線

蔑まれているような
そんな気分










落ちていきながら
見上げている、唇に
あまりにも陳腐で
聞き飽きた文字列が降る

呆れる頬が
私に反して、ただ赤いのは
それでも愛しいからなのか
それとも


この光景を
どこかで見たような
気が、するからだろうか










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自由詩 夜航 Copyright 山中 烏流 2009-02-15 23:10:42
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