桜の森
瀬田行生




夏になると 春色づいてた花は散り
青々と茂る緑の木に変わる
木は二本 三本と増えていって
林になる
林がたくさん集まるといつの間にか
森になる
コンクリートの社会に住む現代人は
目印となる建物や番号のついた国道を
基準に目的地を目指す毎日
森に目印はない
ただ
似たような木がたくさん並んで林になって
ただ
似たような林がたくさん集まって森になるだけ

何年か前に森林浴が流行したけど
森は静かにそこにあるだけで 特に何をしてくれるわけじゃない
けれど
森に入るとなんだか落ち着く
でも そのうち 酔う
一人ではいる森林浴は 地図など何の安心感も与えてくれない
似たような気が一つ一つ並んでいる深い森

木の一つ一つはよく見ると個性がある
それはよく見ないとわからないけど 確かにある

私たちがわかるのは 木の中身じゃなくて 木の外見で
これは人間と似てる
もしかしたら 一つ一つの木は私たちそれぞれで
それぞれ 個性とかオリジナルとか言ってるだけで
外の世界から見れば 左の人と同じ格好してるのかもしれない
森に入って しばらくすると どうしようもない不安に
取り付かれるのは 「そのこと」に気がつきそうになるから

夏の茂る新緑の中
深い森
日の光もあまり届かないほど茂ってる その日
歩いて 歩いて 歩くと 
やがては 
深い森は 緩やかな林になって それから広々とした場所に出る
秋になると 葉 枯れて 
冬になると 雪を迎える 
春になると 花を咲かせ
夏になると 葉を茂らせる
全ての木は
それぞれの季節で自分らしさを咲かすけど 私たちには届かない





自由詩 桜の森 Copyright 瀬田行生 2009-02-15 22:24:17
notebook Home