げしのかげ
Giton

  げしのかげ
  たんせんに
  のでださい
  こいのいた
  しろみだし
(タテ/ヨコ/ナナメに読んでください)


夏至の真昼、
廃止された単線のレールをたどっていた、
バラスの草が延びきって、
周りの草原と区別できなくなっていた、

一本だけ取り残された標木に、陽が垂直に注いでいた、
腐りかけた板に、記された文字は消え、
まるで、あなたには見えないメッセージの存在を主張し続けるかのように、
それはその場所に立ち続けるのだった、

置き忘れられた恋の板、あるいは白い見出し
とでも名づけるほかはないその木片は、
自分の影さえ落とすことができない、
ただ、あなたの方角に、白いメッセージを発信し続けていた。

いつの日か、あなたが、
そのなにもないメッセージに気づいて、
不可解の思いに囚われながら、
この草原へと彷徨って来るとき、

ぼくは、置き去りの標木の陰で、
あなたの様子をうかがっているだろう、
あなたの燕尾服の襟が、汗で汚れ、
あなたの泥だらけの靴が湿地に踏み込むのを、

ぼくはいとおしく眺めながら、
やっとあなたが帰って来たことを知るだろう。
もう、太陽は沈むことがなく、
その日は、時間の果てまでつづくことになる。


自由詩 げしのかげ Copyright Giton 2009-02-14 23:51:12
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