泡の鏡
服部 剛
忙しい日々から逃れ
疲れた体を暖めようと
平日の人気少ない温泉で
頭の上にタオルをのせて
露天風呂に沈んでいた
ゆげの立ち昇る
水面に
現れては消えてゆく
無数の泡の鏡に映る
家族や友の顔・顔・顔・・・
いつか人は
御多分もれずに燃やされて
灰になり
煙突の先から、真っ青な空へ吸いこまれ
ぽかんと浮かぶ
雲になる
( やがて地上を潤すように
静かな静かな、雨が降る・・・ )
今迄に地上で生きた
数え切れない
泡達のこころ
空気中に漂いながら
地上に残された僕等を
あっためよう あっためよう と
顔を持たない
風の姿で
今日も何処かを、吹き渡る