れ、
えりくさちえい



きみが吐いた煙を吸って一度吐く またすってもう一度はく
… きみだなんていうの と
ミーティングルームで下のほうを向いて 自分にたいしていうとき
うららかな春を想像することはこんなにも れ、 とくる

想像上の放送室のスイッチがパチンと入れられて
明るい屋上からパァッと広がる 春のスペース
カチャッ
スペースがあって その隣りにポツンといる春
あのあかるくてまぶしい屋上に フッとあらわれる春

でたらめな回想をして でたらめな回線からでたらめな番号に
ふたりで 9## へと電話つなげた
そのあとなげつけた
アンテナ構造も無かった当時
だいじなものを二、三個あげた ザラ紙で包んでそっと出した

いま煙の中できみは あのまぶしい屋上のスペースに
一瞬で何を思い付くだろうか
タイル地や 青看板や 字のひとつや ビル群や
鉄柵や 向かいのボーリング場を 思い付くだろうか
潰れる前に行っておきたいパラダイスを

ぼくたちには暗がりに居住権がある といってもいいのかもしれない
ここできみとぼくが証言することは 法廷で不利な証拠として扱われる
可能性がある スペースはいくらでもある
春じゃなくても
そこが暗室でも プラネタリウムでも

間違ったようにきみはいった いつも間違った青春のように
間違ったメルヘンのように そこにいた いいや
間違っちゃいない のか チャイムが鳴って冷たいドアを開けたら
煙を吸いに いつものようにぼくがいた

たとえばミーティングルームの角で 言葉にすればするほどそれは遠くなる
れ、 スペース
ごく当たり前に なまあたたかい暗がりにいて
得体の知れないものに気付く
むせて
れ、 春





自由詩 れ、 Copyright えりくさちえい 2009-02-14 13:31:24
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