夜盗夜
木立 悟
許される蛹に樹は満ちて
もう何年も蝶を見ていない
枝を流れる蛾の骸
葉には卵も幼虫もない
ただ在るだけの糊しろの日々
いつも声と指ばかり見て
そのほかのあなたを知らなかった
頬が頬に触れるまでは
指と指のはざまの極北
指と指が同じかたちだと
なぜ今まで気付かずに居たのか
それを知ることはもうないのだろう
盗人であり盗人であり
また盗人であり盗人のあなたを
抱きかかえ盗み 盗みつづけて
しとねには伏せた目が灯り
低い夜をあおぎ
眠りは頬を伝い
見える空ろ
見えない器にこぼれつづける
手のひらが手のひらに降りそそぎ
手のひらはあふれ消えてゆく
どの手のひらかわからないまま
あなたの手のひらは重なってゆく