温み
atsuchan69

水玉模様の細い首輪を嵌めた
羊みたいな純白の犬を従えて
リードを手に黒縁のレイバンが座る、
ゆらゆらと木漏れ日の蠢くベンチ

――お姉ちゃん、犬が好きか?

ああ、こいつビンゴっていう名だよ
どうせ雑種だろうけど

かなりボルゾイっぽいけどな
仔犬のときに拾ったんだ、
一体誰が捨てたんだか、
潰れたダンボールに入っていやがった

でも、まさかこんなに大きくなるなんて

なんだって喰うよ、
煮干とか菜っ葉、芋なんかも
ハンバーグとか好きみたいだけど
殆ど、俺と同じもん喰ってる
今朝もパンと目玉焼き食べてるし

一緒に暮らしてるんだ、
マンションの二十八階だけどさ
こいつ、全然吼えないんだよ
見かけに反して大人しくて
たぶん泥棒にだって噛みつかないナ

濃紺のPコートを纏い、
フリンジのついた白いマフラーと
アルパカウールのニット帽。
素早くサングラスを外して、

――いい匂いだろ?

昨日「TSUBAKI」で洗ったんだ
冬でも月に一度はシャンプーする
ああ、ビンゴはオス犬だよ
まだ去勢していないんだ

オジサンの連れあいがさ、
しばらく旅行に行っちゃって
ビンゴと俺と、シャンプーの匂いと
話し相手の君が今ここに居てさ
かよわい冬の陽射しが、
ほんの一寸だけ心地よいのかな?

そう、温みって酷くささやかだね
――お姉ちゃん。


自由詩 温み Copyright atsuchan69 2009-02-10 20:55:54
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