知らないことについての断片


「息を継ぐ」


分からないまま
首を縦に振る
流れにまかせて泳ぐ
そして時々溺れる
深い海の底で
深呼吸するような
青い空気に染まっていく
太陽と共に
嘘が暮れて
夜と共に
言葉が空を滑り始める

明日
知らないこと
の多さを知っている
分かりあう
分かりあったつもりになる
月に反射する
薄い光の見え方が
あなたとは違うということ
気が付けば
少しずつ
針が回って
地球儀は元へ戻り
同じ坂道から
また昨日が滑り落ちていく





「守られている」


突き刺したのは夕暮れ
崩れていったのはいくつかの煉瓦
そっと積み上げてきたものたちが
音をたてて落下し
そして飛び去って行く
太陽の向こうに見えるのは
いつも知らずに飲み込んできた空気
積み上げていたときには気付かなかった風が
ジーンズと衝突して
かさついた音をたてる

吐き気がするほど綺麗な空から
また新しい傘が降ってくるのを見ても
僕はまだ 名前を呼ぶ行為を止められずにいた

 




「続いていくこと」


知らない (知らなかった)

たとえば もうすぐ消えてしまうこと
無駄な話ばかりするのが楽しかったこと
人と会うのが、面倒で、人がいないのが、面倒だったこと
空が好きだと言いながら、久しく空を見上げたことがなかったこと
人が壊れるということ
誰かに会いたかったけれど、それが誰かわからなかったこと
分かった気になれば、それで良かったということ
痛い、と口に出して言うのを夢見ていたこと
分かったふりをしてほしかったということ
終わってしまうということ


知らないことが多すぎるから、まだ終わってほしくはないということ









自由詩 知らないことについての断片 Copyright  2009-02-10 00:11:39
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