嚥下
ホロウ・シカエルボク





傷み過ぎる眠りに夢を忘れた、翳りながら覆される朦朧とした光、俺の脳内には
目覚めと共に忘れてしまう残像だけがまたたいた―残像(現象の幽霊たち)
部屋の隅に転がるとぐろを巻いたストッキング、持主とはもう長いこと連絡がつかない
留守番電話は大事な要件の前に一杯になってしまう、再生しろ、記録出来なかったことそれだけを
プラスティック容器に詰め込まれた慰み、指先で擦れて泣声の様な音を立てながら…何故というわけもないがほとんどを捨ててしまう
喉元を滑り落ちる生半可に温かい物体の感触(深く考えたら吐き出してしまう)
見送るための歌なんか俺は歌わない、たったひとりで
こじ開けなければならない茶を飲み干す(歪み…アルミの、缶の)
哀しみが過ぎていらだちに変わるころ、炙られるような色味の朝が来る、狂ったみたいに讃美歌を奏でだすポータブル・ラジオ
好きに動かせるチャンネルを変える気など起こらなかった
がら空きのボディのようなクロゼット、獲物を待ちわびる鮫の
牙だらけの口に見えてくる
朝日はキッチンの方から昇ってくる、飾りガラスをスラロームしてくる…果てしないまだら模様(口径のでかい銃の弾を撃ち込まれたみたいな日常の影)
誰かが階段を駆け降りるリズムが、イメージを過剰にする
ほら死んだ、また死んだ、ばらばらと床に転がって
添加物にまみれたいやな息の臭いを嗅いでいる
さようなら、見送るための歌なんか俺は歌わないよ(まだら模様の影の中で風化する肉の夢を見る)
再生しろ留守番電話、お前が守れなかった約束をチョイスして
真剣さなんていつか笑い話に代わるものだ―馬鹿みたいな―馬鹿みたいな記憶の積み重ねが
唇に嫌な笑いを残させるのさ…ストッキングを首に巻きつけ、鮫の牙の間をくぐる






消化されるまであとどれぐらいかかるだろう






自由詩 嚥下 Copyright ホロウ・シカエルボク 2009-02-09 22:22:08
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