滑走
楽恵

波打ち際の流木に
白いワンピースの後姿

沖に向かって風が吹いたとき
彼女の瞳は
黒曜石のように輝き始める

白のスカートを翻して海を渡り
愛した故郷の港や島影が遠くなると
こめかみに残る記憶の全てが蜃気楼に思えた

大洋の真ん中に来ると
鴎は鴎の真似をした
ヨットはイルカの真似をした
波は雲の真似をした

それらと同じくらい
風は彼女のことをよく知っていた

やがて彼女は銀色のサンダルを
片方だけ脱いで海中に投げ入れた
それは白のスカーフのようにも
何枚かの手紙のようにも
一片の羽根のようにも
見えたはずだった

そして風は彼女を連れて再び海上を走り始めた


自由詩 滑走 Copyright 楽恵 2009-02-09 01:29:45
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