ミクロ分析
木屋 亞万
陽子の命令するままに動いていたら
わたしは14歳のときに死んでいただろう
光子は文句だけは言うけれど助けてくれないし
ほかの子は側で黙って見ているだけだった
あの時わたしはなぜ死ななかったのか
下を向いて歩いていた足元のスニーカー
(学校の決まりで真っ白だったのに、薄汚れていた)
アスファルトの粒が粗くて
(その隙間に肉体がどろどろ流れていってわたしが消えてなくなるという予想もあった)
見上げた空は陽子みたいに冷酷な水色で
(空に吸い上げられて10年後まで、意識が飛ぶという展開も期待した)
光子みたいな入道雲が鬱陶しいくらい自己主張をしていた
(入道雲とわたしが入れ替わるというのも十分にアリだった)
掃除道具箱に押し込められて
扉を壁の方へ回転され、いくつもの机で押されたときに
そのまま呼吸困難と圧迫感で死んでもよかった
下校時に鞄が無くなっていようが
上靴が木の枝に引っかかっていようが
もう気にすることすらできないくらい
陽子はわたしに怒号を送り続けていた
新しい真っ白のスニーカーを買っても
新しい紺色の通学鞄を買っても
それはわたしに費やされる前に消えてしまう
わたしは包丁を買おう
返り血対策に量産店の服を買おう
逃走用の単車を盗む技術を身につけて
新しく自分を受け入れてくれる土地を調べる地図を買おう
そう思った
毎日、狙う心臓の位置を確認して
首を切り落とす角度を考えていた
みんな怒れる陽子の計略だった
光子は意地悪な助言ばかりくれた
わたしを踏みとどまらせたのは
ひとかけのドライアイスだった
(散々わたしの指をやけどさせた後、消えた)
(死ぬ理由も生きる理由も、別に、何でも良かった)
ドライアイスが消えやすいように、わたしは泣いてあげた
(それはケーキを冷やしておくためだけに生まれたドライアイスだった)
まだ誰の胸にも抱かれてないし
誰も胸に抱いていない
(身を委ねることへの憧れがあった、その逆も)
大人の恋をするまでは生きていよう
それまでの間、わたしの心はドライアイスになるのだ
冷たすぎて、触れる手を火傷させるような心になるのだ
そうして今も生きている