殺しに到る感情のラインβ
ホロウ・シカエルボク






くちばしのみだらな小鳥を二羽絞殺する黄砂にまみれた二月の昼下がり、人差指にまとわりついた赤インクのような小さなドット、嘘みたいな薄情な赤、だけど寸前の生命の確かな終り…なめて綺麗にして、それきり忘れた
闇雲にばらまくのはよしなよ、もうそれ以上…罪汚れたものどんなにもがいても水面に浮上することなど出来はしない、水底に漂いながら揺らめいて光を放つ遠いそれを眺めるだけさ
運命などいらないって言ったのは自分じゃないか?生命の重みに値しない人生ならいらないって悟ったつもりの馬鹿な坊主みたいに…放棄する手段を取ったのは他ならぬお前ではなかったか?生前葬は終わってしまったよ、お前は少し完璧にやりすぎた、終わってしまったんだ、終わってしまったんだ、終わってしまったんだ、終わってしまったんだ
終わってしまってもはや灰まで海の向こうへ風に乗ってしまった
遺言を残す暇がなかったね、戯言ばらまいている暇に一つ二つでも残しておけばよかったね、だけどまあ、飴のように寸断される人生だってこの世の中にはたくさん溢れているわけだから…切口が血を流してようがそれには何の意味もないのさ…掴んで引き戻すための手首をなくしたやつのことなんて誰も気にかけてくれやしないよ
どこへなりと行くがいい、お前の気が済むように進めばいいんだよ、もはやお前のことを気にかけるやつなど何処にも居ないから、お前はすべての工程を取っ払って先に進んでしまったんだから
誰もお前のことをもう二度と気にかけたりしない
お前が望んだことだったろう、誰の手もかからない場所で傍観を決め込んですべてを終わらせてしまって、何もない砂漠で王者の振舞いをすることは?戦うことも、逃げることも知らないまま、身を守る術を何ひとつ身につけることなしに…選んだものは強い風すら吹かない大地だったんだろう?
足元に転がった、すでに硬直した二羽の小鳥の死体…くちばしの色だけが何も変わらないもののように…お前は虚ろな瞳でそれを見つめ続けてばかりいる、ほらみろ、そこからどうすればいいのか少しも思いつかないんだ
怒りや憎しみを学ぶ前にやらなければいけないことがたくさんあったな、お前自身が先に行くために学ばなければいけないいろんなことがさ…破裂しそうだったんだろう、選んでしまったんだろう、心が動きだすよりも先に…お前の指先はすべてのものを汚してしまった、死に触れたものはそこから次第に腐っていくんだ、誰も気がつかないような鮮やかな速度で…気づいた時には雨に打たれたように身体は濡れそぼっている、例えようのない、言いようのない紫の世界で…
二羽の小鳥の魂がいま、窮屈な身体を抜け出して透過する空へ浮遊していったのが見えなかっただろう、お前にはそうしたことは一切認められないのだ、報われるべきプロセスを辿るもののことなど…お前には一切知ることは出来ない
どんな気分だ、独りぼっちだ、誰もお前を気にかけるものはない、お前の望んだ通りの世界、二羽の小鳥は死してからもなお、お前を目に留めることすらしはしなかった、先に行ってしまった、先に終わってしまったお前よりも先に…見晴らしがいいだろう、突然手に入れた素晴らしい世界、だけどそれは天国よりも気の利かないところだぜ
二羽の小鳥の羽音が聞こえる、連れて行ってくれとお前は口にしてしまう、そんなことはお前は望まないはずなのに…お前はただ一人の楽園の中で砂時計のように生きて死んでいく人生を望んでいたはずなのに…二羽の小鳥の羽音が聞こえる、二羽の小鳥の羽音が聞こえるよ、お前は気づいたのだ、それ以上何も、それ以上誰も…その世界では舞い上がったりしないってことに…アーハー、怯えている、今頃…過ちを犯したのかもしれないという予感に震えている、だけどそんなこと考えてももうどうにもならない、だけどそんなこと考えてももうどうにもならないんだ、二羽の小鳥はもうお前の手には届かない、すべての存在はもうお前の手には届くことはないのだ、愉快だろう、すべてがお前のことをあざ笑おうとしている、そしてお前はもうそいつらの顔すら目にすることは出来ない…お前は錯乱する、狂わせるものは恐怖さ…自分自身の深淵を覗いてそこに何も無かった時、人は心の底から真摯にキチガイになってなりふり構わずやりまくるんだ…もう小鳥の番じゃない、もう小鳥の番じゃないだろう、武器を取れ、無力なお前、今度こそお前の胸がすうっと晴れるときだ、表通りの喧騒が聞こえるだろう、やつらは油断している、いまから数分ぐらいならお前の思うツボだぜ…ほうら、叫び声をあげて…畏怖されたいんだろう、お前がそうしていたみたいに?玄関のロックを外して、恨みつらみ並べながら…お前の罪汚れ、お前の腐敗、そこいら中にばら撒いてしまえ…絞殺、絞殺、横たわる二羽の死体、お前を見捨てたすべての魂…嘲笑が聞こえてくる前に…今ならお前の勝ちだ…




今だけならば。








自由詩 殺しに到る感情のラインβ Copyright ホロウ・シカエルボク 2009-02-08 13:56:20
notebook Home