亡霊と空蝉
百瀬朝子

煙と汗まみれ
熱気が生んだ水蒸気で曇る
リズムに狂ったあの日の夜が
恋しくて恋しくて、愛しくなる

空蝉うつせみにとり憑いた亡霊のパフォーマンス
怪しげな手の動き
不吉なダンスに目が離せない私たち
心まで釘付けにされた私たち
人間の波に呑まれたのは魂
解放するのは終焉の時 のみ
空蝉にとりついたのは私たちの魂 か?

悲しみで擦り切れた心
ボロボロになるまで駆け抜けた過去
忘却した傷口を生温かい唾液で濡らしてよ
乾いて剥がれてしまわぬように
ねっとりとしたその分泌液で溶かしてよ
こみ上げて溢れる涙が語るのは癒される喜び
草臥れたあたしを許すようないたわり


憑依は解けて 夢から覚めた ここは空蝉 亡霊はいない


そう、許された


自由詩 亡霊と空蝉 Copyright 百瀬朝子 2009-02-05 21:45:32
notebook Home