An ENPTY OVEN
伊月りさ

干あがりはじめている
眼球に満月がうつって
わたしの魚類は決起した

精度をあげた
鱗は
  鋭利になった
  鱗に覆われた
そこを掻きむしる指先は真っ赤
な爪の間に平然と住んでいる
百戦錬磨の闘い人が平然と
闘っている
返り血が
かがやいて、
ひさんして、
燃えはじめるきみの体液は
渇いた眼球に浸透して
わたしはまた誤魔化されてしまった

打ち上げられた
彼女の腹は裂けて
海に流出した、人間の土壌が再生を目指して
崩壊する
海には染みが残り
彼はそれを喜んでいた
生命の生臭さに背けたい目を
細めて喜びを表そうとした

男は満月の
統計学を打ち立てたいのだ
あの夜にも
わたしは波打ち際で
きみに引きずられて行く街の
老婆の言葉を信じている
きみは
安らいだ指で
兵器をわたしに
嚥下させたので
わたしの魚類は決起した
わたしの下半身が魚になる、
潮が引いていく、飛沫が聞こえなくなる、わたしは
泳げなくなる、わたしで
断絶してしまった
わたしたちは熱い砂浜に転がされている
がらんどうの子宮

それは、オウブンだと謂う
パンを焼けない世界中のオウブンが決起して
津波をおこすが
わたしたちは煙がいい、
わたしも、
わたしも、
煙で男たちを沈めたい

いま、彼女の兵器は
世界で一番確実な防衛戦線を築いた
その殺傷能力は
男を殺し
人間を殺し
鱗を削る指先を殺し
きみに本物の快感をおしえた、
引き潮は加速し
プランクトンは死滅し
彼女は機械ですらなくなり
わたしは歴史から追いやられる
歴史に食い込んでいく弾丸
  カノウセイは拒絶されて、
  キケンセイは回避されて、
モラトリアムをやめられない、半端を
愛だと言うのなら
悲しいかおで投下せよ、
防弾チョッキを
脱げ!
接合部を焼き切れ!
接合部に点火しろ!
接合部に
わたしの
人間は言葉をかき集めている
水平線に向かって叫喚をする
  遠洋に
羊水が波打つ
彼女は鱗の下に海嶺の砂粒を確認する

わたしは泣いて
しかし
わたしは兵器を拒まないだろう
二度と濡れない尾ひれの肉は 明日から
順当に腐っていくだけだ
羊水は干上がっていくだけだ
この鱗は
わたしは
風化していく
孕まないまま母になるだけだ

それでも
オウブンは
狙っているのだ
冷凍保存された宇宙を解凍できることを
黙っている
わたしは、昨日
きみの奇形児を生んだ


自由詩 An ENPTY OVEN Copyright 伊月りさ 2009-02-05 13:16:37
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