赤い車
木屋 亞万
信号が立っています
青い光を放っています
不自然なほど続く直線に、等間隔に立っています
そこを一台の車が走ります
おもちゃみたいな赤い車です
後ろに引いてネジを巻かなくても走ります
辺りはアスファルトのようにほの暗いです
朝が近いのかもしれません、暗闇ではないのです
ぼんやりとした朝の最先端に青が点点点と光ります
音はありません、効果音を入れてあげたいくらいに静かです
ものがたくさんあるのに音がないというのは迫力があります
すべてがおわってしまったようなかなしみもあります
その悲しみは朝を呼びます
朝はきっと新しさに満ちていて、元気のある人たちが動き出します
赤い車の曲線美に、眠る女性のパジャマ姿を思い浮かべます
てんてんてんと立つしかない信号に男の純朴さを感じます
車は真四角にはなりません、信号は歩きません
車と信号が交わることを人は事故と言います
青い光は時に赤く赤く染まります危険な色です
危険を犯して車と車も交わります交通事故と言います
かつて姦通・密通は罪でした、交通はどうなのでしょうか
信号はどっちつかずの黄色を燈して逃げようとします
高速道路には等間隔に黄色い電灯が並んでいきます
川に写る灯りが美しいのは、川面が揺れているからです
高速道路を赤い車が走ります
フロントガラスを黄色い光の球が流れていきます
高速でいくことにどれだけの意味があるのだと問うています
空は一面の曇り空です、雲は雲であることをやめたように平面です
車は浮ついています、空は飛びません
雲が押さえつけているのです、大地が吸いつけているのです
赤い車に吸い付きたくなるのは、なぜでしょうか
誰にもわかりません
言葉は風景を紡ぎます、人を描きます、心を映します
この詩は隠喩のようです
この詩に意味はありません
何の伝達事項もありません
あなたが読むかもしれません
誰も読まないかもしれません
あなたは忘れるかもしれません
誰も覚えていないかもしれません
でも確かにここに一編の詩があります
赤い車が走っています、等間隔に青い信号機があります、黄色い電灯があります、
空は一面灰色です、暗闇は終わりつつあります