正夢。
ゆきちゃん。

携帯が久しぶりになったと思ったら
ママからだった。
女子大生のひとり暮らし なんて
本当はすごく地味で
例えばツタヤのイケメン店員に
なんとなく惚れてみたりして
そうやって  ごまかしてる  いろいろと

ずっと憧れていた社会人の彼と
やってみたい。と思っている。
つきあいたい。とは思っていない。

銀座で待ち合わせ。
学部の男たちとも
テニス部の先輩とも
バイトの男とも
違う。
ビールを5杯
焼酎ロックで

携帯は1度も見ない。
私の中途半端な大きさの11万円で購入したヴィトンのかばんには
ピンクのシガレットケース
その中に
ピンクのライター
マルボロメンソールが10本入っていて
出番をうずうずして待っているけれど
肺が痛くなろうが
今日は吸わない。

ひとりは寂しい

つぶやいたら
じゃあオレんちで飲み直そう
とか
言うんだ社会人でも
スーツだろうが
スウェットだろうが
みんな一緒。
そうして私はそれを
良く知っている。

金曜の有楽町駅で
私はたいしてドキドキもせず
すべて計画通りに進む現実に
少し飽きてきている。

中板橋で降りて
あと300秒数えたら家に着くよ
だなんて
そんなつまらん会話で
そんなんどーでも良くて

私はただ
寂しさを埋めたいだけだよ
あなたも
そうでしょう?

ウイイレで間を持たせるあたりは
学生と変わらない。

深夜2時に私たちはセックスをした
いつだってこの瞬間には
どうにかして 何もかもを
ぶっ壊したくなって
それは17歳のあの日から
もう何百回だって同じ気持ち

けれど19歳のときにしたセックスは
どうしてあんなにも気持ちよかったのだろう
「愛」
とか
そんな答えは望んでいないの

けれど19、20、21歳の頃の
私の中に入ってきた男のことを思い出すたびに
あの頃より幸せな私を
想像することができない
きっとあれ以上の幸福は
もう私には来ない。
あの日々ほど満たされることは
もう、ない。
幸せに順番をつけるような真似はバカみたいだけれど
あの日々は圧倒的に一番だった
(一番って、嫌な響きだ。漢字もダサイし)

あの男ともう一度最初から出会えるのならば
私はあの男を幸せにしてあげなければいけない
幸せ、とは?

私は社会人の
よく知りもしない男に抱かれながら
もう二度と手に入れることのできない
甘さを、切なさを、
味わっているふりをしている

あの男の「今」には興味はないけれど
私と一緒にいたころのあの男は
何を考えて 何を思って
私と一緒にいてくれたのだろう
あの男がいなくなってからの私は
わからないんだ。すべてが。
どうでもよかったり
気になったり
悲しくなったり
優しくできたり
好きだったり
ムカついたり
私は、
「私」を、
あの日に置き去りにしてきてしまった
だから全部わからないんだ。
わからないふりをしているんだ。
本当はこうやって寂しさを埋めている私が
どうしようもなく傷ついていること
良くわかっている

社会人は抱き合ってキスをしている間
ドキドキしていて
私はちっともしていないから
イライラする
感じるふりをして
唇を離して
鏡に向かってあえぎ声を出す

朝になれば少し申し訳なさそうに変に優しくされて
彼は昨夜の出来事のせいで罪悪感でいっぱいになっていて
きっとそんな自分に酔っている。
私はまたイライラして、けれど、そんな素振りは見せない。
またね
と彼は言う。
化粧が崩れてぼろぼろの顔のまま私は電車に乗って帰る。

そうして今度は
おととい髪を切ってくれた美容師と
やってみたい。とか思う。
つきあいたい。とは思わない。

あの男の顔はもう思い出すことすらできない。


自由詩 正夢。 Copyright ゆきちゃん。 2009-02-04 03:39:34
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