青木そうすけ≦プル式というカテゴライズ
プル式

青木そうすけ
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[自由詩]少年の手紙(翌朝十時)/青木そうすけ[2008年9月29日18時02分]

みんなの手紙には花が咲いている
将来の自分に一生懸命応援を送っている
少年の手紙には花は咲いていない
小さな種が微かに見えるだけで
その種すら残骸の様だ
先生は言う
どうしたのかな
何を伝えたいのかな
どうなっているのかな

少年の手紙には花は咲いていない
微かに見える種は残骸でしかない
少年は快活に笑う
快活に見える様に笑う
出来るだけ透明に笑う
土を
水を
持っているその手を
押し付けられるその手を

少年はクラスで一人では無い
しかし少年はいつだって孤独だ
誰も気付かず
もしかしたら本人さえ気付かず
孤独になれるとはそういう事だ
すべての境目が解らなくなる
そういう事だ

放課後に少年は手紙を書いた
出来るだけ花の咲いている様に見える手紙を
それを教卓の上に置き
少年は教室を後にした
それは少年の精一杯の強がりだったのかも知れない
それは少年の本当の心だったのかも知れない

少年が帰り道に河原の土手を歩いていると
遠くから誰かが少年を呼ぶのが聞こえた
少年が振り向くと少年より少し背の高い
少年とそっくりな目をした青年が立っていた
青年は握った手を突き出すと少年に何かを渡した
少年は青年に背中を向けて駆け出した
どこまでもどこまでも続く多摩川の土手を
青年は少年が見えなくなるまで見送っていた
少年が見えなくなると青年もまた夕の闇に見えなくなった

それから十数年がたち少年は青年になった
ちょうどあの日の夕暮れの様な多摩川の土手で
青年は土手を走ってきた少年に何かを渡した
あの頃の自分より少し幼い顔をしたその少年は
孤独の意味を知っている様な顔をしながら
不思議そうに青年を見つめ返すと
ありがとう
そういって走り去ってしまった
青年は少年が走り去った先を見つめ
少年がすっかり消えてしまうと
土手の階段を下り始めた
それから青年は帰り道に安い酒を買うと
真っ暗な自分の部屋にかえって酒を飲んだ
人知れずほうっとため息がでた。

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[自由詩]おもいで/青木そうすけ[2008年9月30日23時24分]



















































































あぶりだし

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[自由詩]愛のうたを唄う鳥/青木そうすけ[2008年10月2日17時03分]

愛のうたを唄う鳥
真っ赤にさかれた姿で死んだ
ぴーちくちぱぱと泣きもせず
辺りに真っ赤な花つくり

あのねあの人私見た
両手を真っ赤にそめ上げて
わちこ、わちこと泣きながら
きらきら真珠の玉つくり

あの子あそこで笑う鳥
両手でひっぱり引き裂いた
きゃはり、きゃはりと声あげて
うさぎの目玉をみひらいて

あたしあの子に恋をした
真っ赤なその手にうさぎの目
したりしたりと近付いて
あの子のおなかを引き裂いた

びちりびちりとぴーちくちぱぱ
きらきら真珠は真っ赤っか
わちこわちこと嬉し泣く
あたしに産まれた愛の鳥。

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[自由詩]飴/青木そうすけ[2008年10月2日17時04分]

雑木林に囲まれた団地にその人は住んでいた
いっつも僕に飴を握らせるその手はしわしわで
理由も無いのにまるで汚いものみたいな気がして
ついに一度も僕の口に入る事は無かった
僕がその町を越す時にまでその人は飴をくれた
それから年が過ぎてそれが遠くなった頃
仕事でたまたま通りかかった団地の集会所で
葬式の幕が張られているのを見かけた
あの人がいくつだったのかは知らないけれど
きっと生きては居ないだろうと思う
漠然とだがきっとそうだろうと思う
僕はしばらくそれを眺めた後
ポケットの飴を口に入れエンジンを回した
車は静かに走り出しあっという間に世界が消えた
僕は思う
僕は今あの人の飴が欲しいのだと
僕は思う
僕は思う。

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[自由詩]ワタシという事、アナタという事。/青木そうすけ[2008年10月3日12時32分]

解り合えない事を知っている
もどかしさも寂しさも
それだって晴れた日には心が疼き
そばに居られればいいなんて
愛しさや恋しさや哀しい勘違いを繰り返しながら
明日には何があるだろうなんて期待をして
諦めきれずに中途半端にぶら下がりながら
正反対の言葉は一体誰に向けられた言葉だろう

あなたの夢を見ました
遠い背中に沢山の荷を背負いながら
何処かの寂しい湿原を
俯きながら歩いていました
それがもう怖くって怖くって仕方なくって
もう帰らないんじゃないか
私は迷惑なんじゃないか
待つなんてなんてそんな事ばかり考えてしまって

あなたはいい人よ
いっつも頑張れ頑張れって言ってくれる
本当にいい人
だけどねごめんね私頑張らないわ
違うか
頑張れないわ
あなたいい人だからそれでも頑張れなんて
言ってくれるのでしょうけれども
私にあなたは真っすぐ過ぎるから
一緒には居られないわ
好きよあなたの夢
応援してる
世界中の反感を買ってもいいからなんて
安いかしら

今日はいい天気だから何かいい事ありそうな
ただ毎日が少しだけ違っていくし
可愛い友達とお茶したり挨拶したり
エキストラみたいな毎日だよねきっと
それでもちょっと誰かに会いたくってさ
口紅なんて塗らないから友達だって少なくって
彼氏なんていればいいのにとかね思って
いいんだもん寂しく無いもん無いんだもん
今日はいい天気だしきっと待ってるよね
エキストラじゃない一日

電話の隙間から小さく聞こえる声
テレビか何かのノイズ
あのねそれでねそれからね、ね、ね
心ごとこっちを向いてよお願い少し
泣きそうになっちゃうからお願い
ねえ心から笑ってるの
解らない見えないのは何故なの
そうそれじゃまたね
おやすみなさい

ワタシラシイっていう事が
アナタラシイっていう事から一番遠くて
そんな事がそんなにいけない事なら残念ね
アタシはどうしたってヒールで揺れるし
アナタはどうしたって踊ってるし
疲れないでよね
自分に出来ることしか出来ないし
出来ない事は出来ないし
すれ違いなんて当たり前でしょ
気取ってたってしかたないじゃん。

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[自由詩]そこにある/青木そうすけ[2008年10月7日18時44分]

それから僕は足音をたてずに歩く様になった

午後
昼下がりののんびりとした時間
彼は笑いながら指を地面に向ける
彼はいう
この下にはブラジルと言う国があって
日本人もいくらか移り住んでいて
とても鷹揚な人々が住んでいるのだ
僕にはそれが本当なのか嘘っぱちなのか
一向に解らないのだけれども
どうやら地球は丸いというし
逆さまに人が居たって良いんじゃないかって
だからそれから
足音をうるさくしちゃまずいと思うし
戦争なんてなっても嫌だし
そうっと歩こうと思った
都会の人達はみんな足音がしないのは
そういう事なのだろうか
気が付くと僕も
いつの間にか足音が消えて
灰色になっている。

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[自由詩]スーパーソニック/青木そうすけ[2008年10月9日19時31分]

スーパーソニックだ
空にはどこまでも雲が続き
光の波打ち際の窓辺には
部屋の中を照らす程の
波しぶきだ

音がする
光の弾ける音だ
やはり
スーパーソニックだ
静かな午後に
スーパーソニックが
全てが
消えて行く
光だ。

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[自由詩]空とクジラの事/青木そうすけ[2008年10月9日19時31分]

空というものに
きっと知らない世界があると
雲の大きな
さかさまの地面をけって
落ちてきた
僕が笑っているので
なんだか
ほんとうに
なんだか
スぅっと遠くに
泳いでいくクジラになって
空に帰りたいなと
思うのです。

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[自由詩]ここから君にコンニチハ。/青木そうすけ[2008年10月9日20時44分]

違う夢を見ている
僕は眠っている
歩けない夢を見ている
僕は知っている
隣で君が眠っている
足は動かない
誰かに目覚めを待っている
歩けると言う事も
君と違う夢を
僕が見ていると言う事も
僕は知っている
僕と君は同じだと言う事も
だから僕は動けないと言う事も
全てが繋がっていると言う事も
だから僕は食べる
全ての僕の為に
僕は食べる
そうして一つずつ君に溶け出す
君に変わっていく。

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[自由詩]ニンゲンという生き物/青木そうすけ[2008年10月10日19時38分]

四角く綺麗な真っすぐな線と
ソフトゴムを張ったような平らな
転んでも怪我なんてしない様な
えんじと緑と白い色の中で
すくすくと
すくすくと育ちなさい

転んだ痛みも
人を傷つける痛みも
悲しい痛みなんて知らない
優しい真っすぐなニンゲンに育ちなさい

飢えも争いも知らない穏やかな世界で
世界の汚れから解き放たれ
そのまなこで見える世界を信じなさい

あなたは自由だと言う事が
その本当の意味など知らず
真っすぐな言葉の意味を信じなさい

あなたの腕や足や
頭や体や
目や耳や口や鼻や皮膚や声や爪や
どこまでも広がる何もかもの世界が
あなたの為にあると
生きる事の素晴らしさを感じながら
この四角い世界の中で
幸せに暮らしなさい
幸福に暮らしなさい。

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[自由詩]うすらぺったい/青木そうすけ[2008年10月14日12時54分]

なんだかね
なんだか今日は眠いですよ
空は薄曇って灰色で
少ぅし辺りが遠くなって
たまにパンのいいにおいがしたら
びょうって風が吹いて凍えて
まるで別の人か
ただ見ているみたいな
少ぅし眠いですよ
なんだかね
なんだか別のところに居るみたいですよ。

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[自由詩]明日に失う/青木そうすけ[2008年10月15日12時42分]

君達は美しいのだ
何と言おうと美しいのだ
その力が染み込み
拡がりゆく夜にまた
新しい命を絶ち
秋になる
一つ一つ
丁寧に包まれた君達が
睫毛をふせ
ほう
そう呟く時
夜にあかりが燈る
君達はその明かりそのものだ
命だ
明日に続く小さな糸だ
止まってはいけない
止まれば私の様になる
あざく醜い
遠くからもそれと判る
塊となる
君達は美しい
地を這い
ま暗な中に手を伸ばし
互いに手を繋ぎ
明日に花のみず車が回り
そよ吹く風が心地いい
夢を見ながら
今日の一日を求めなさい。

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[自由詩]泣いてなんやらんよ/青木そうすけ[2008年10月15日12時47分]

電車のアナウンスは早口で解らんで
いつだってひとりな気がして
胸が苦しくってねぇ
誰かと話したくなってん話せんから
じいっと胸を押さえて
泣き出したいのを堪えるんよ
人ん前で泣くなんてねぇ
どげんしたっちゃろっち
恥ずかしいもんねぇ
言葉も田舎弁じゃしねぇ

みんなみたいに明るく話せば
笑えばいいっち思うっど
言葉について行けんとよ
笑われっとが恐いっとよ
あんこはゆっくりやっち
変わっちょるっち言うけど
そんな事ないんよ
これでも本当はしっかり考えちょるし
色々感じちょるんよ
ただ少し上手く言えんっとよ
そいだけなんよ
そいだけ

あぁ
駅についた
今日はちゃんと笑えとったろか
人が少なくって虫の泣いちょるのが聞こえる
明日は晴れると良かのに
良かのにねぇ。

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[自由詩]君愛しきかな/青木そうすけ[2008年10月27日19時32分]

すい
と通り抜けた
かすかな匂い

夏の汗の
小さな
綻び

夏の終わりの思い出を胸に込めて「人でなしの恋」より

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[自由詩]ひだまり/青木そうすけ[2008年10月28日11時35分]

詩を書いた
誰に見せるわけでも
なんの為でもなく
ただ、なんとなく
なんとなく
詩を書いた

夕べあの娘にメールをして
夜中に不意に思い出して
夜中にぺちぺち詩を書いて
それでもなんだか足りなくて
目を描いた
一つでは足りなくて
もうひとつ
一対の目を描いた
ただ少しちぐはぐな目を

とても澄んだ目に見つめられながら
僕は眠ろうと思った
寝て、起きて、詩を書いて、また絵を描こう
僕にはそれくらいしか思いつかない

昨日、僕は詩を書いた
今日はとてもいい天気で
とても暖かい
心臓の辺りに擦り傷があるように
ぎゅうっと、ぞわっとする
昨日僕は詩を書いた
今日はとても暖かい。

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[自由詩]飴と、かむろと/青木そうすけ[2008年10月30日11時36分]

てのひらに飴玉
似合うね
まるでかむろみたいだ
振り返り様がかわいいね

手にする?
何を?
飴玉ってなに?
かむろ?
前髪ぱっつんだよ

ははっ
そうだ夜だ
飴玉のかわりに風ぐるまをつくろう
月を掻き交ぜてみたくない?
ぐるぐる回るのは地球
明日もここにいる?

しゃん、らん、
しゃん、らん、
しゃん、らん、
しゃん、らん、

ついて行く
暗い道
ちょっと待って
明かりがわりに朱い髪飾りを結ぼう
ご覧
これで君は寂しくない
鏡にはうつらない
魂の糸だから。

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[自由詩]べつに意味など無い/青木そうすけ[2008年11月1日0時11分]

ぼみなばそめだとらぶったらぶん
くぎいだれたてかねうん
はをねかでまねらあだだみあーぎが
こみあらもえさきあだらまさんが
こてとききよしにとたらびるる
にごはににこすしはげらびあーぬ
いらたしなこてたろん
るんだてるでのしだろん

きぼなはのおせなったらった
みくらいかわしとらろんびあぬーん
のがべけいりぬっべとりべせっとぅ
すみたなそないしたたらびあっか
ぐえだいれのさひたらさたらしあな
とるけのはださらたらでぃあ
なかのさあかはがくざりさ
りもこふきらそなうあ
さしとふらさそとさうあ
あれ

そんなわけで
楽しめたなら
それはそれで
僕は
嬉しい。

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[自由詩]コンスタントムジーク/青木そうすけ[2008年11月7日17時43分]

あるのか
ないのか

多摩川を越える線路
こちらが夢で向こうが現実
それともこちらが現実で向こうが夢
両方夢
両方現実
いずれにしても
いずれにしても

マゼンタ100
シアン90とマゼンタの混合
間違いなくそこにリアルは無い筈なのに
通過する現実

お祭り電車には不条理ばかり詰め込まれ
否日常の筈のそれは日常に代わる
日常の不条理は道理に代わる

同じ物を3つ
保存と飾りと破壊の為に
衝動と理性と臆病の為に
正義と悪意と均衡の為に
3つの天秤を

窓には快晴の青が光る
太古の青などなく
水の底である筈の地上から見上げる空には
透明度など無く濁り
張り付けられた天球には黒い継ぎ接ぎすら見える

マゼンタ100
シアン90とマゼンタの混合
光より遅く
風より早い
不条理の固まりに現実はあるのか

そこでは空に青があり
その向こうには小さな星がある
今は見えないが
確かに星がある事を僕らは知っている
空に天球など無い事も
不条理など感情に過ぎない事も

マゼンタ100
シアン90とマゼンタの混合
コンスタントに流れる不条理の固まり
何があるのか
何が無いのか
全て在るのか
全て無いのか

トラス3から4
現実がこちらとそちらのどちらにしても
そこに在るだけの物を量れる天秤を
僕らは持たない

マゼンタ100
シアン90とマゼンタの混合。

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[自由詩]時計のカチリとなるその瞬間/青木そうすけ[2008年11月10日23時13分]

メルシィ
ありがとう
酒に飲まれて
今日を生きる
今日は
僕が生まれた
昨日は僕が生きた
メルシィ
ありがとう
猫を抱きながら
路地に
生きる

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[自由詩] 糸 /青木そうすけ[2008年11月14日14時25分]

「糸渡り」
今にも耐え切れず「ぷちん」と音をたてて真っ逆さまに落ちるのではないだろうか
気をつけて進む程に足元は大きく揺らぎ落ちまいと必死にバランスをとる滑稽
友人などは潔いもので「えいや」っとばかりに進み
もう随分と行ってしまい背中が僅かにちらりと見えるくらいだ
これでも要領はいい方だと自負していたのだがどうにも上手くないらしい
右へ左へと今にも切れてしまいそうな糸にしがみつきぶらさがり
やっとこ握りこぶし一つかな進む
進んだつもりが握りが甘くまたバランスを崩し後戻り
先に行ってしまった友人の背中はすっかり消え
いつの間にか辺りには些の様な白い靄に包まれている
進みはじめた頃にはまだ見晴らしも良く足元に地面も見えたのだが
一歩進む毎に地面から離れて今ではもうすっかりである
時折吹く風のようなものが一時視界を晴らすのだがここ暫くそれもない
さてどうしたものかと思案に暮れても仕方なしとにかく脚や手を動かす
流石にもう格好等に構ってもいられず
擦り切れようがはいずろうが気にもしなくなった
しかし前に進む為にはそれではいけない
友人の様な潔さで立ち上がらなければならないらしい
私は臆病ではあるが持ち前の思い切りのよさがあると自分勝手に信じている
しかし一度しがみついた糸はなんとも離れがたく
なかなか手放しに立ち上がる事が出来ない
それでもやっとこ立ち上がり「えいや」と友人宜しく駆け出した三歩目
「ぷつり」と言う音と共に暗闇が訪れ時間が判らなくなった。

「糸繋ぎ」
横断歩道を過ぎた辺りで目の前に糸が垂れている事に気がついた
随分長い間雨風にさらされたであろうそれは糸先がほつれている
しばらく観察して見たがそれが何処から垂れているのか判らない
いっかな解決しないそれを一つ思い切り良く引いてみる事にした
どうだろうまるで電灯の紐をパチリと引いたように急に真っ暗になった
孤独である
自分の手が見えぬ闇がこれほど孤独感を与えるとは思わなかった
辺りには意識を鋭く刺す静けさばかりが集まりまるで落ち着かない
天も地も見当がつかないままで回りから何やら大きな圧力を感じる
確かに地面を足は踏み締めているのだが本当に地面なのか確証がない
きっと宇宙などに取り残されたならばこの様に孤独なのかも知れない
どうしたものか考えては見るが全て闇の中に消えては浮かぶだけである
何も解決しない事に孤独感も相俟り再び紐を引こうと辺りに手をだした
しかし紐が在ったであろう辺りには空をかくばかりで手応えが無い
永遠にこのままなのかと途方に暮れついた手に小さな手応えを感じた
闇のせいか感覚ばかりが鋭くなりまるで闇そのものになったようだ
手元のそれは何故だか双方から延び互いに結び付かんとしている様だ
止せばいいのにつまらぬ気を興しそれを繋げてみる事にした
右と左いや右も左も判らぬのでとにかく右手と左手のそれを結びつける
それは難無く絡み付き修復されて一つの糸になった様であるが詳細は判らぬ
繋がったであろうと同時に空に浮いたそれは何処からか引かれているのだろうか
糸を両手に掴み張りを確かめてみようと二度三度下に押してみる
しっかりと張られた糸は綱渡りのロープの様に確かな手応えがあった
子供が駐車場のチェーンで遊ぶ様に糸に腰をかけ少し揺らしてみた
切れない事を確かめた次に今度は両足を離しブランコの様に揺らした
気が付くと辺りはいつの間にか明るくなり本当のブランコに腰掛けていた
暫く瞬いた後で辺りを見回して立ち上がりながら何処の公園かを考える
ゆっくりと足元を確かめる様に歩き出すと鳥がハタハタと飛んだ。

「糸紡ぎ」
井戸の底の水の中に狐が居りそれが人を狂わせるという
迷信だか信仰だか知らぬが聞いたからには捨てて置けない
つくづく損な性格だとは思いながら性分ゆえ仕方ないと溜息をつく
噂のある村まで向かい井戸の中を覗き見るが何も見えない
微かに水面の揺れるのが光に反射して美しいと思う
豊富な井戸だと思う
夜になるのを待ち再び井戸の中を覗くが明かりがもとない
ともかく中に矢を射る事にしてその晩は切り上げる事にする
「とん」という音が三回と「エンッ」という声が一回
再び中を覗くがやはり明かりが乏しく中をすっかり確認する事が出来ない
仕方なく近くの木に紐を結びつけ井戸の中におりる事にする
狐が一匹死んでおり隣にもう一匹の狐が寄り添っている
狐は酷く睨み付けた後で降りて来た紐を噛み切ってしまった
それから朝になり数人の村人が井戸を覗きに来たがどうやら見えないらしい
なるほど助けは呼べぬかと腹をくくり狐と対峙する
「かの者は我が愛おしき者なればその命を奪いし者許さじ」
数日の後に狐はそういうとぱったりと絶命してしまった
村人が水を汲みに来る度に声を上げてみるが気付く気配もない
さてどうしたものかと思いながらじっとしていても仕方ない
降りて来た時の紐を上に引っ掛けようとするが幾度試しても上手く無い
そうこうしている間にすり切れて使い物にならなくなってしまった
思案の末に狐の毛を集め紙縒り糸を紡ぐ事にした
しかし紡げど紡げどもう少しという長さで糸は消えてしまい先に進まない
おそらく数年か数十年こうしている気がする
しかし一向に腹が減る事も無ければ狐の毛がなくなる事も無い
そのうち井戸には蓋が敷かれ昼の明かりさえ入らなくなってしまった
それでも糸を紡ぎ続ける事を止める事が出来なかった
止めてしまえばもう人として居られない気がしていつまでも紡ぎ続けた
誰も居ない暗闇にはいつしか静寂のみが広がっている
それでも時折糸紡ぎの「シュシュッ」という音の向こうで誰かの声が聞こえた。

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[自由詩]ぷかぷかうかぶ/青木そうすけ[2008年11月14日23時49分]

水の中にぷかぷかゆっくりと潜りながら
二分もするとすっかり力が抜けて
なんだか色々な事が
どうでも良くなります

苦しい息もすっかり消えて
食べる事も、眠る事も
もしかしたら生きている事も
小さな事だと思います
それから勝手におしっこが出て
脚のあたりがあったかくなって
いい塩梅になって
ぷかぷかうかぶ
くらげになります

海の中の小さな波が体をゆすり
ゆっくりゆっくりと揺れながら
上や下やに浮かんでいると
どこか遠くの辺りから
トーン、トーンと音がします
もしかしたら誰かが
呼んでいるのかも知れません

それから脚の辺りに漂う
おしっこのあったかさで
ブルッと身を震わすと
なんだか急に空が見たくなって
どうしたって見たくなって
そうして少しずつ
少しずつ
生きている事が頭に戻って
背骨や体が戻って
息が苦しくなって
何か食べたくなって
必死にもがきたくなって
ぼんやりとした頭で
ただただ水を掻いて

やっとこ
呼吸を空に向かって
むせる様に何度も
なんども繰り返しながら
目をあけると
空が何もいわず
そこに在るのです
ただそこに
空が在るのです。

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[自由詩]old man silence(詩文)/青木そうすけ[2008年11月17日14時22分]

男は歌う雨の町を歩く
傘にあたる雨粒
自分の靴音
雨宿りする鳥の声
此処にはそんな全てがあった

ある日いつもの散歩道
小さな小さな鳥の子が
羽を傷めて泣いていた
男は帽子に鳥をいれ
もう大丈夫と微笑んだ

小鳥はとても良く懐き
何処でも一緒に散歩をした
繋ぐ紐など要らなかった
男の肩がお気に入りだった
雨の日はポケットで眠った

小鳥の羽が癒える頃
小鳥はもう小鳥でなくなった
鳥は立派な羽を持ち
自由な翼で空を飛んだ
だけれどきっと男の肩に留まった

鳥は空を男は鳥を必要とした
それでも鳥はきっと男の部屋に
男はきっと鳥にご馳走を
二人で朝まで言葉のない話をした
今日の事や明日の事やそれから

鳥が帰らなくなってひと月が過ぎた
男は窓をいつも開けて待っていた
本当は知っていた
それでも構わなかった
男は鳥を必要としていた

ある晴れた日
男は久しぶりに散歩をした
小鳥を拾ったあの道を歩いた
足をとめた男の肩に鳥が留まった
そうしてまた飛び立っていった

男は走った
待ってくれ、待ってくれ
そう叫びながら走った
もう少し、もう一度
そう叫びながら追い掛けた

鳥を見失って息を切らし
見上げた空を横切る梢に鳥の巣があった
鳥は穏やかに険しく雛に餌を与えていた
男は笑った
それでも噎せながら泣いた

男はまた散歩を始めた
時折見上げる空には鳥が飛んだ
男には鳥が必要だった
鳥には空が必要だった
空には青い風が吹いていた。






※噎せ=むせ


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[自由詩]月・酔いどれ・僕にはかけない絵画/青木そうすけ[2008年11月17日23時57分]

百万回の死んでしまえと
千回の生きていたいでは
同じ質量で違う重力
私はどちらに身を振る事も出来ず
ただ口を動かすだけ

そこに声は無い

私の声は音にすらならず

詩は

コップの中のワインに消えて行く





それだけだ

それだけで











私は死に
たくない


同時に
その時既に





死んで




生まれてはいない










死にたくは無い
だから











だから


私は。

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[自由詩]鰯の頭も信心/青木そうすけ[2008年11月18日23時43分]

地元のスーパーで百円セールをしていた
めざしが十二尾でパックされていた
家に帰りパックをあけ
目刺し棒をするすると抜いて
一尾ずつラップでくるんで
お弁当でも酒の肴でも使える様に備える
きちんと等間隔で列べられた鰯は
まるでテレビで流される無機質な被災地の様に
透明なフィルムの中から有機的な目を向けている
鰯に痛みは無いとは聞くが
その目には痛さを超えた何かがある

何処だか争いの好きな国ではロブスターだか伊勢海老だか
痛みを感じさせ無い様にと指示しているらしい
牛や豚は病気でも平気なのに基準ってナニ
鰯にしてみればさ
これってテロより酷いよね
死体売買
大量殺戮
しかも大量破棄
なんで生きてんだろうね
僕はべつにそんな事どうだっていいのだけれど
主観と客観の差なんて
ただ僕が食べて美味いと思う鰯が
もし話せて
歴史を記す国家があったなら
有史以来の暗黒の時代だよ

裁判は殴られた相手の立場を重視する
殴った意味はその後だ
僕が食べた背黒鰯の味わいなんてのは無意味で
大量に網にかかった鰯の質量と料金の意味合いしか無い
鰯にとっては殺戮された意味さえない
ならさ
戦争や治安維持で大量に死んで行く人たちって
どんな意味があるの
喰えもし無い人たちに殺されて
食えもしない屍を残して
海豚には体を張って保護しようとするのに
僕らが死んでもそれは
「かわいそう」や「しかたない」で纏められて
他の国の死人なんてニュースにもならない
今年の鰯は大漁で値段は安くなるでしょう
今年の日本人は医療の高騰により大量で安値になるでしょう
ないない

昨日僕は鰯を買った
十二尾で百円だった
どこだかの政治家が「いただきます」の意味が分からないと言った
それはそれでいいのかも知れない
僕はそんな事はどうだっていい
それでも殴られた時の痛みは
忘れたく無いと思う。

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[自由詩]やわらかな空にはじまる事。/青木そうすけ[2008年12月10日18時44分]






朝が茜に染まるので
いろいろなものが
きらきらと
しゃらしゃらと
音をたて
輝き始めます


たとえば
マフラーにくるまれた
梨みたいな顔には
桃の花が張り付いたみたいに
頬やおでこや
鼻や目や
体中がきらきらと桃色に染まります


それから
昼ひなたには銀色になってしまう
魚のうろこみたいな屋根瓦
雪が白いカンバスみたいに
桃色やオレンジ色で染まっていきます


そうしてだんだん
だんだんだんだん
気がつかない間に
屋根瓦が白金に変わって
桃色やオレンジは青色に染まって


冬のシャラシャラとした
小さなちいさな音達が
瓦や、土や、木や
例えば吐く息の中に溢れだし
世界中がきらきらと輝けば
それが冬のやわらかな
それが冬の暖かな
一日のはじまりです
はじまりなのです。





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[自由詩]牛歩/青木そうすけ[2008年12月16日22時49分]

前に進む
牛がいる
ゆっくりだが
力強く
けっして滞る
事は無い
止まった姿でさえ
前に進んでいる

前に進む
牛がいる
一歩毎に
力強く
踏み出す
その脚が
僕を
導く様に
足跡を
残して。

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[自由詩]雨傘ゆらり/青木そうすけ[2008年12月16日22時52分]

雨傘ゆらり
  雨の中

赤白ピンク
  花の色

雨に弾けた
  思い出は

楽しい色でも
  無かろうに。

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[自由詩] 照れ隠しのアフタヌーン/青木そうすけ[2008年12月17日22時09分]

目を閉じたらバイバイガール
手を離してバイバイガール

ラブ&ポップとバカーラック
なんか少し、興味
独り言を片付けるしぐさ
夢を話す
そんな歌
チーキー
だけどまあ
話すよ
夢とか希望とか
答えをね

答え
探してる訳じゃない
探してない訳じゃない
曖昧
決められないから
そんなの
だから
ゆっくりな踊りがいい
不安定にぐるぐる
いつまでも回る
一人で回る踊り

迷惑かけてない
でしょ
仕事やってる
でしょ
雨降りだけど傘が無い
けど
気にしなくったっていい
でしょ
風邪ひかない様に
漢方と風呂と水分と

暖かい部屋で
温かい紅茶と
有給休暇
前の日に仕事を片して
風邪をひいたふりで

いきなり休む
だから次の朝は憂鬱
昼から出勤
病院に行ってきたとか
言いながら

雨だけど本当は
折りたたみ傘があるんだ
気が
つかない振りをしてたんだ
雨が降っているから
それでもいいかなって
迷惑じゃないなら
それでいいかなって。

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[自由詩]愛と言う名の沈黙、人という名の喧騒/青木そうすけ[2009年1月14日12時41分]



歌う



とか



匂う



とか



描く



とか





運ぶ



とか



鳴らす

太陽

とか



溶かす



とか





あと





目と



僕に

君に

空に

声に

胸に

涙に

闇に







目と

声と

唸り





手と

手と

手と

手と













手と

手と

手と





歌も

雨も

春も

匂いも

土も

足も

雪も

風も

時も

道も

音も

陽も

鏡も

熱も

影も

外も

人も

手も

目も

僕も

君も

空も

声も

胸も

涙も

闇も

唸りも




全てに。

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[自由詩]鰯の頭も信心(書き直し)/青木そうすけ[2009年1月25日11時28分]

地元のスーパーで百円セールをしていた
めざしが十二尾でパックされていた
家に帰りパックをあけ
目刺し棒をするすると抜いて
一尾ずつラップでくるんで
お弁当でも酒の肴でも使える様に備える
きちんと等間隔で列べられた鰯は
まるでテレビで流される無機質な被災地の様に
透明なフィルムの中から有機的な
嘘みたいに真っ黒な穴になった目を見開いている
鰯に痛みは無いとは聞くが
その目には痛さを超えた何かがある

何処だか争いの好きな国ではロブスターだか伊勢海老だか
痛みを感じさせ無い様にと指示しているらしい
牛や豚はどうやって殺しているの
鯨は駄目なのに人間の基準ってナニ
そうだ人は
人も殺すんだっけ

鰯にしてみればさ
これってテロより酷いよね
死体売買
大量殺戮
しかも大量破棄
なんで生きてんだろうね
なんの為に死んでんだろうね

僕はべつにそんな事どうだっていいのだけれど
主観と客観の差なんて
ただ僕が食べて美味いと思う鰯が
もし話せて
歴史を記す国家があったなら
有史以来ずっと暗黒の時代だよね
無意味な殺戮

裁判は殴られた相手の立場を重視する
殴った意味はその後だ
僕が食べた背黒鰯の味わいなんてのは無意味で
大量に網にかかった鰯の質量と料金の意味合いしか無い
鰯にとっては殺戮された意味さえない
ならさ
戦争や治安維持や内戦や
毎日大量に死んで行く人たちってどんな意味があるの
喰えもし無い人たちに殺されて
食えもしない屍を残して
海豚には体を張って保護しようとするのに
僕らが死んでもそれは精々
「かわいそう」や「しかたない」でしかない
他の国の死人なんてニュースにもならない
今年の鰯は大漁で値段は安くなるでしょう
今年の日本人は医療の高騰により大量で安値になるでしょう
ないない
なんにもない
意味なんてもっと無い

昨日僕は鰯を買った
十二尾で百円だった
どこだかの政治家が「いただきます」の意味が分からないと言った
それはそれでいいのかも知れない
僕はそんな事はどうだっていい
それでももし殴られたならその痛みは
忘れたく無いと思う

鰯の頭も信心から
信心してどうにかなるなんて少しも思えないのだけれど
それでも僕は
争わない道があるって信じているよ。

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[自由詩]きゃらきゃらと笑う/青木そうすけ[2009年1月28日11時25分]

水の音を出すピアノ
風の音を出す歌声
カラカラと回る風車
空には青い夢と綿飴
ここはどこだろう
何をしているのだろう

音が消える
変わる
独りよがりな想い
太陽が回る
決して太陽を回らない
相変わらず空は青く綿飴の雲
音が無くても変わらない

永遠を信じますか
争いは無くせますか
歌を歌えますか
人を信じていますか
今、笑えますか

ピアノは平和の象徴
歌声は命の象徴
風車は荒廃と過去
空は甘い幻想と未来
今どこにいる
何をしている
暖かな日だまりの中で
何を見ている。

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自由詩 青木そうすけ≦プル式というカテゴライズ Copyright プル式 2009-02-02 19:13:02
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