(無題)
キキ
むら雲の輪郭を
指でなぞれば
切りすぎた爪のあいだにも
入り込む冷気
雪のうえに取り残された
林檎のかおりは
まだ風のなかに漂って
わたしを追い立てる
明らんできた外界の
塀のうえには
くったくなく押しつぶされた
雪のかたまりが並んでいて
その冷たさに
触れたいのに
どうしても届かない
わたしの記憶のなかの
あなたの目のふちから
覗き込む過去は
陽の昇るまえの
淡い空気のなかで
姿見にうつる自分のかたちに
よく似ている
手を重ね合わせ
凍れる額にあてる
もういい
どうせ
とおもっているのに
背中をさらしたまま
くずれおち
ひざまずき
まるまり
そのままいちにちをすごし
わたしの潔白を
あなたにふたたびみいだされたい
という誘惑に
駆られる
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(無題)