親しい風と話す
オイタル

黒板のように冷えた庭に
青い椅子を二つしつらえ
朝の風を呼んで座らせた

そして二人で思い出した
夕暮れの曇った空を映して
川の水がうわごとのように黒くうねっていたこと
雪の木肌から生まれてくる雉の子の羽の色
森に住む父の行方

風は
老いた電柱の肩口を
幾たびか巡った
夜のうちに届いたはがきを銜えて

(昨夜 空の辺境で
 惑星が酔って泣いていました。
 かわいそうな惑星。
 父はここ二、三日
 蜜の入ったりんごをかじりながら
 北の林からカシオペアにのびる
 砂丘沿いのバイパスを歩いています。
 岩の上で腹ばいの少年が
 動かない妹の
 頬の産毛をなぞっていました。
 変わりなく過ごしていますか。
 お前たち兄弟に
 明け方の重たい夢を送ります。)

僕と風は
それからしばらく肩を重ねて
空を見ていた
山陰から白い曙光が噴き出す
あれは父だと風は言う。
帰らぬ父だと風は言う。
透明なはがきが幾葉も庭に散らばる
折りたたまれた空の縫い目から
雪を呼ぶ声が
切れ切れに届く


自由詩 親しい風と話す Copyright オイタル 2009-01-31 22:56:34
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