子守唄
悠詩
仔犬は真っ白に汚れた嘔吐物を舐めている
真っ黒に澄み渡る雪のシルエットの中で
真っ白に汚れた嘔吐物を舐めている
温もりを忘れてしまった舌先は
うずもれて擦れてしまった空言を掘り当てる
仔犬の目は光り
空言を舐め回し
「ぼくら互いにねじれの位置にあるんだよ」
という微笑みを浮かび上がらせる
はぐれ犬の幻想 stray dog portray fog
少年は仔犬を縊っている
やわらかい手のひらに雪が溶けるように
しなやかに手を伸ばし息が漏れぬように
足元の噛み合わないはす向かいの
誰とも交わらない無限回廊
二重螺旋を歩くふたりは
空間の変数表示を
時刻の媒介変数表示にしようと
決して出会うことはない
「ぼくら互いにねじれの位置にあるんだよ」
という微笑みは
口封じのための鍵だったのです
予定調和の共同正犯 arbitrator conspirator
雪は流体である
雪は不加算名詞である
流体のなかにたゆたうひとひらの雪の
「透き通った結晶の先端が壊れてしまいました」
というひとりごとは
流体の中に埋もれていく
消えたっていいんです
誰だっていいんです
非存在の代替可能物 imaginative alternative
少年は雪の塊に腰掛ける
透明な罪を傍らに携えて
「ただいてくれるだけでいい」
という慰みの
爛れ崩れていく氷点下
−(そばにいてあげるから)
−(温もりを分けてあげる)
爛れ発酵したアルコールは
わだかまり生まれ変わり
意識を蝕む灼熱
人肌を奪う気化熱
氷の少年と存在悪 chilled child killed guild
生まれ変わるときには子供になれますように
廃れていく心が遠くに離れていくように
真っ黒に澄み渡る雪のシルエットの中で
宙吊りにされた心がわずかに揺れる
右心室の片隅に
二重螺旋の紡いだ鍵穴
「ぼくら互いにねじれの位置にあるんだよ」
という鍵を差し込む
辿り着いたアトリエの奥に
縋りついたいにしえの言葉
詩歌の化石 lyric relic
それは先駆けだった
ひとひらの雪が舞い降り
少年の乾いた唇に触れて溶けた
堰を切ったように降りしきる雪
流体の先駆けとなったひとひらの雪は
赤い唇のなかに鼓動を捉えていた
真っ黒に汚れている闇が
真っ白に埋もれていく
仔犬を縊った手を伸ばす
流体の雪から掬い取られた
ひとひらの白いかけら
結晶の先端の欠けた断面は
とても痛ましく
とてもいとおしく
とこしえに刻まれる二重螺旋の
共鳴する音が聞こえる
誰とも交わらないから
あなたの代わりはいないのです
神から授かったあなたの慈しみ
をしたためた少年の温もり
Tad
heat
only
noted
amity
of
you
linked
a
god
Tad heat only noted amity of you linked a god
ただひとりのためのゆりかご