ひとのきかん
紫音
発せよ記せよ ことば ことば ことば
口唇のぬめりを 指先のしなりを 以って
意識の解体が世界を懐胎し 生れ落ちた ことば
語れよ残せよ ことば ことば ことば
眼球の視矢を 土踏まずを 以って
人 ひと 一 再編し再生し 育ち熟れた ことば
聳え立つ摩天楼の揺らぎに
影を添える月に似て
詩は人の器官として世界を捉え
鏡面として映す
神経の高速道を神速で飛ばし駆け巡り
温泉のゲルマニウムに身体が浸かり湯巡り
あらゆる事象を切り取り
現前へと移す
生と死の対角線上に線分を引き
聖と詩を二分する等分を探し
机上の天地創造はまた
人の期間の有り様
かつて踏み締めし足を以って
人となり展開し転回した天界の矢が
火と共に人を失わせた歴史に
詩を以って槍とし死を以って盾とす
ひとふたまるまる
ロンドン塔が正午を指し示す時
豊穣なることば を以って
人は人へと還る
詩は再び世界を拓き
人の帰還が始まる
世界を呼吸するために
詩を
気管とし
器官とし
帰還が始まる
発せよ記せよ語れよ残せよ
ことばを掲げる炎として
火との奇観に歓喜の歌を