錦繍
水町綜助




クラッカーが鳴らされた
遠い船旅への出航にも似て
さまざまな色の
無数のリボンが流れては
黒い羅紗の床を汚してゆく
ひとつの別れなのか
祝うべきことなのか
知らない
どこへかを

リボンは伸び続けた
長い時間の中を
ゆくうちに
ときに細く磨耗し
ときに枝分かれ
横はしる一本を巻き込み絡みながら回転し
らせんを描いたし
気付かず綾をなし
縦横に広がる一枚の布を織りなしもした
そして明け方の軒先に薄い闇を見つけて
張られた蜘蛛の巣のように
結ばれた露にはあまさと
煤煙の苦みがあった



月をみたり
いつまでも輪郭をとらえることのできない
太陽をみた



人はらせん状のいのちを連ねそこに立ち
天体は林檎のようだった
木々は広げた葉や針先のいら立った葉をそよがせ
海は、海に落とした真夏のシャツのように
比喩をくつがえして波打つ
太陽はリンゴだ
人は紙きれで
ひらひらと裏表のない
球体を翻そうとして
おはようございますと
挨拶をする
たいていの人は笑顔を向けるかして
おはようございますと言い
こんな日々はその延長線上にあり
またその先頭にあっては過ぎ去っていくが
過ぎ去りながら
激しく飛ぶ鏃の
もっとも苛烈に空を切り裂いていく鋭角の先端にある

そして質量をもたない風圧に
球体を飛ばされ
呼吸を止め
気を失う
白い


おはようございます

おはようございます

昨日はほんとうに
ひどい雨でしたね

ええ、横なぐりの暴風雨
締めきった窓が
がたがたとゆれて
たくさんの雨粒を
うちつけていました

でも今朝はこんなに晴れて

ええ
窓をあけたら
こんなにも晴れて


自由詩 錦繍 Copyright 水町綜助 2009-01-30 00:30:18
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