素描
佐野権太
夕暮れの水位は
さざなみ
浅い胸に、さざなみ
空白で埋めたはずの
小さな画布が
素朴に満ちてゆく
海面に浮かぶ
危うい杭に
うずくまる鳥の
膨らませた羽から
零れる文字のやさしさを拾って
あのひとを素描する
かきあげる髪
笑う、声の光
そうしたものに
色をのせれば
すぐにあふれてしまうから
飛翔するあのひとの
美しいかたちを
細く、願う
日没までの僅かな時間
少しずつ失われてゆく
そうして
少しずつ慣れてゆく
凪いだ海の
遠い境界のゆらぎ
目を細めて
仰いだ空が
じっと青をこらえている