瞳
ふるる
ジェラルミンの鳥は片羽が壊れているのでギチギチギチギチ床をのたうちまわっています。わたしのセラミックの鱗もぱらりぱらりと解けつつあるので、寿命が近いと感じます。寿命。機械であるわたしの寿命。
できたての頃のわたしたそれは美しい人魚として売られていました。大きくて清潔な水槽の中で休むことなく泳ぎ回り。時にはプラスチックやアクリルでできたピンクやオレンジの魚たちと戯れ。わたしの鱗は光の当たる角度によって何色にも見えるので、皆ためいきをついてオーロラをまとったようなわたしの尾ひれを眺めるのです。光の戯れと言われた黄金の髪や。深い深い海よりももっと深い青のガラスの瞳を覗き込む人も絶えず。
わたしの設計者である男の子はやがて青年になり。毎日わたしに話しかけてくれていましたがある日。戦争に行くことが決まったのだと言いました。人を殺すために設計者になったわけではないのに、仕方のないことなのだろうかと、泣きながら、別れを告げていきました。ガラス越しにキスをひとつ残して。
さっき大きな音がして、わたしのいる建物にも爆弾が落ちたようです。外を優雅に飛び回っていたはずのジェラルミンの鳥たちがばらばらと無数に落ちてきました。一羽はまだ死に切れず火花を散らしながら床をのたうちまわっています。水槽の中の液体はもう少ししかありません。わたしのセラミックの鱗もぱらりぱらりと解けながら、まるで光の中の雨粒のように、幼い子がこぼしたキャンディーのように、散らばってゆきます。それはとてもきれいです。こんなに壊れきった建物の中、割れたガラスの中でも、美しさを放ち。
あの人に、見せてあげたい。
機械であるわたしの寿命は今日のこの時のようです。あの人がガラス越にしてくれたキスを、わたしも返しましょう。ガラスのかけらを、微笑むことができない唇に押し当てて。ジェラルミンの鳥は静かになりました。わたしも瞳を閉じます。皆がため息をつきながら覗き込んだ、深い深い海よりももっと深い青のガラスの瞳を。あの人の姿を記憶したままで。
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