セイウチ
小川 葉

 
都会では
駅でたまたま友人に
会ったりするものなのかい
問う父に
そうだよと
わたしは答えた

セイウチみたいになった
友人にね
友人でもないのに
会ったりするものなんだよ

きれいなビルディングの
すきまには
どんな美しいものがあるのかい
問う母に
何もないよと
わたしは答えた

セイウチみたいになった
ゴミをね
ゴミでもないのに
拾ったりするものなんだよ

卵のまま生まれて
卵の中で成長してしまって
殻をやぶらぬまま
それは遺骨として残るんだ

田舎では
駅でたまたま友人に
会ったりすることもあるのかい
問うわたしに
そうだよと
古い友人は答えた

セイウチみたいになった
君にね
今は友人でもないのに
会うと懐かしいものなんだよ

セイウチみたいに鳴く
言葉ではないみたいに
卵の黄身やら白身やらが
からだのあちこちから
流れ出てくる

もうほとんど
セイウチみたいに
 


自由詩 セイウチ Copyright 小川 葉 2009-01-26 01:29:39
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