小さなお茶会
プル式

くるくるとまわすターンテーブルの上で
二つに切り分ける
シロップにつけられた甘い桃と苺の酸味
甘みを押さえた生クリームでそれを包み
スポンジで優しくはさみ込む
上下の位置をあわせてゆっくり
丁寧に下地の生クリームを塗って行く
薄くまるで絹がかぶさっている様に
それから少し甘めの生クリームを厚めに
今度は僕の思う様にしっかり塗って行く
素早く丁寧にのばすクリーム
固めで割れない微妙なクリームを絞り出し飾り立てる
そこに花が咲くように
ひとつひとつ丁寧に
またフルーツで花を作る
苺とキウウィとオレンジと桃
いろんな色の花が咲く
それを丸いテーブルに載せて
色々な人のテーブルへ行く

僕は聞く
どちらをお切りいたしましょう
色々な人が迷いながら選ぶ
もちろん
お茶も合わせてお勧めをする
やわらかな味と
静かな時間
忙しい毎日に忘れてきた
小さな無くし物
気が向けば僕はその人の前に座って
その人の話に微笑む

他所の国から来た人は不思議そうな顔で僕を見る
クレイジーだという
そう
クレイジーだろ
だけどほら甘い
はさみ込まれたシロップのみたいなチープな甘さ
パンケーキだけじゃパサ付いてしまうから
生クリームみたいなクッション
気まぐれ
迷惑かもしれないけどあきらめなよ
パティシエの気まぐれなんだから
君の話が聞きたいんだから

店をたたむ事になった時
お花を貰った
小さな花
あんまり大仰な事はしたく無かったから
お店を開いたら食べに行きますね
そういう花だった
ありがとうと言った

それから随分たったけれど
僕はそれ以来ケーキを作っていない
ただ時々
おいしそうなケーキをみると幸せな時間を思い出す
どちらをお切りしましょうか
それでこの間のお話どうなったんですか
気になっちゃって。


自由詩 小さなお茶会 Copyright プル式 2009-01-25 14:51:35
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