朝の次曲
長元坊
朝を歌う鳥が
私の朝に光を照らす
まだ明け染めの空を泳ぐ鳥たちが
大地を覆う絹布を一枚一枚啄ばんでいく
家並の背中を見つめながら
廃墟の町にも日は昇り
鳥の声と木々の呼吸が
巷の影を薄めていく
今朝も今朝が来た
おそろしき今朝が
物語のあらすじさえも
夢の中で果たせぬままに
真っ白な朝が来た
予定調和に慣れた肉体は血を失くし
指揮者のいない楽団は思わず楽器を床に落とす
本番だ
これが本当のぶっつけ本番だ
純光がたましいを照らし
世界が私に期待する
しかし・・・
さあ、とせっつくのは世界ではない
焦りを転がしているのは私自身だ
鳥たちがあまりにも悦び目まぐるしく
世界を歌い翔けるのを聞いて
その明け染めのアレグロに
偉大なる黎明のファンファーレに
いやがおうにも第九のはじまりを感じたのだ
だが朝はかくも速やかに自らページをめくる
親愛なるアダージョ
鳥たちの金管より花たちの唱和へ
生命事物の静かなる息使いへ
物語を知らず、物語を奏でるものたちの即興へ
眠りから目覚めへ
私の胸の奥から聞こえてくるものは
ほかでもない、存在の自然
それは生あるものの最初の鼓動
森羅を流れる無音の読経
とくとくと
とうとうと
ああ、私のハートは人間世界を未だ知らない
世界は真っ白のままだ
知れば鼓動は早まるか
いや、早まりはしまい
知れば読経は乱れるか
いや、乱れはしまい
花よ
おまえたちの歌が聞こえる
意味もなく目的もなく
歌い始めた歓びの詩が