itai
木屋 亞万

村が息を吹き返すと
私は息苦しくなりますと
一人の少女が伝えた

議長である村長と
ひそひそと話をした後の
商店街のリーダーの視線と
校長先生の視線が交わる

君はもういいからと言われ
こんな村、ダムの底にでも沈んでしまえと
机に落書きをして会議室を去る

人目を避けるように
田んぼと旅館の間にある小屋に
忍び込んで思い切り泣いた

瞼の両脇が裂けるくらい強く目を閉じて
耳たぶの裏から涙が出そうな勢いで泣いた
首から、肩が、胸も、手まで震えて
auauと顎から声がこぼれた

死んだように硬直していると
車が2台ほど、突き出した尻の後ろを通った
腫れた目と、骨髄の曲がった身体を
zuzuzuと小屋から引きずり出した

旅館のおばさんのだし巻き卵をご馳走になり
離れのおばあさんにほうじ茶と茶菓子を頂いて
犬のジローの頭を撫でて、目に沁みる電灯の筋に沿う
息を長く吐けば、空気は心配そうに寄ってきてくれる

田んぼの遠く、山の辺りで蛙が鳴いている
風がfufufuuと電線を鳴らして、月へ旅立つ
沁みるような月の匂い、山が風にくすぐられている
鼻から吸う息で心に余裕を作ろうと思う

このカーブを降りると家だ
油断した目の前には
音もなく沈む我が家と
ダムの気配


自由詩 itai Copyright 木屋 亞万 2009-01-23 00:49:50
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