[求める手]
東雲 李葉
欲しいものはいつだってこの手の届くところにあった。
赤い積み木。母の微笑み。阻むものなど何も無かった。
だけれど今どんなに何かを求めても、
赤い残像。人のぬくもり。指の間をすり抜ける。
幼さ脱いだ掌は広げることばかり覚えてしまって、
躊躇うことなく掴むことを忘れてしまった。
手を伸ばしたならすぐに繋げる指先を、
振り払われるのが恐くって固く拳を握っている。
何度この手を払われたって守りたいものが確かにあった。
今はどれにも何の執着も持てていないけど。
子供部屋に散らばったすべての色を愛しんでた。
お気に入りの黄色い傘に代わりなんて無かったのに。
何度声を張り上げられても譲れないものがたくさんあった。
今はどれも記憶の隅にさえ残っていないけど。
この手で触れたものすべて、僕にとっての特別だった。
父がくれた黄色い傘は風に吹かれて飛んでった。
欲しいものはいつだって自分の手で確かに掴んだ。
父の背中。母の手のひら。諦めることなど知らなかった。
なのに、いつからか、どんなに何かを求めても、
飛ばされた傘。雨の冷たさ。追いかけることをしなくなった。
ささくれの増えた指先は守ることばかり覚えてしまって、
恐れることなく求めることを忘れている。
手を伸ばしたならすぐに繋げる指先を、
振り払われるのが恐くって何も言えずに握っている。