春贄
小池房枝

梅は前線を作らない
梅前線と決して言わない

ぽつぽつと
五月雨がやがて降りしきるように
いつの間にか咲いている
あちらこちら
あたたかな
山肌や
木々や
家々の壁を背負って
大勢でいても
ひとりで

きっとどこかでは
いつも
いつまででも咲いているのだろう

まんさくや
ロウバイや
辛夷と連翹と山吹とゆきやなぎ
花桃や桃やスモモや梨や杏と
天を突くような白木蓮
やまざくら
さとざくら

冬の深いところでは
何もかも
一度に
幾重にも春の重なる土地がある

そんな
紅天女の里のような土地から
ほんとうに飛んでくるのかもしれないね
飛び梅

大きな木は少ないけれど
紅い梅のほうがいつも少し早く咲くのは
そういうわけかもしれない

山奥の隠れ里
佐保姫に仕える村人たちが住まう村

いつか訪ねて行きたいが
道を知らない


自由詩 春贄 Copyright 小池房枝 2009-01-20 23:57:56
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