春を待つ
かんな

風を辿ってみれば
春はいまだ遠い
待っているのかもしれない
病室にいる母に
思いを巡らす
どんな風景を、この雪
窓から静かに
眺めているのだろう

病を患って永い
爪の先からこぼれるように
祈りは水のよう
母から削れ落ちた、いや
落としていったのは
幼かった私が
おかしたような
過ちの断片

窓辺に母の涙が
落ちる、想像をする
それが幾重につらなり
氷柱ができる
その先から
雫が垂れるとき
春は近いのかしらと
尋ねる母のまなざしが
はかない夢のようで

あの日あの時
雪山を駆けのぼったのは
私か母か、重なる
氷柱を見つめる
落ち積もる雪の
中に埋めていったのは
やわらかな祈りの雫
春の風に吹かれるときを
静かに待っている



自由詩 春を待つ Copyright かんな 2009-01-19 22:26:45
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