熱と背
木立 悟
火に呼ばれ
膝に呼ばれ
地にしゃがみこむ空から
したたり落ちる血に呼ばれ
前触れもなく終わり はじまる
何も持たない一日の音
傷は風に近くひろがり
傷は轟き傷はひらめく
人が消え家が消え
やがて道も消えてゆくとき
ひとつの背だけがはっきりと残り
ただ何かをうたいつづける
遠のく 遠のく
膝ひとつ分だけ傾いだ世界を
語りかけるもののかけらが
遠のいてゆく
変わりつづける水の音が
姿より速く現われて
手のひらの上よろこびながら
放ち放ち 放たれてゆく
あおむけの鏡に映る灰
雪が雪に消えてゆく音
たくさんのたくさんの夢の終わりに
ひとつの背が淡くかがやいている