この夜の向こうに
服部 剛
真夏の夜の果て無い大地を
月光に照らされた細長い蚯蚓が
独りであることも忘れ
只 無心に這っている
それを見ていると
たとえ独りでも
この夜の向こうへ
歩いてゆかねばと思う
否
無意識の内に
いのちは
すでに歩み続けている
この夜の向こう側の遥か彼方の
全てが始まり全てが終わる
あの境界線へ
地上の物語を投げ出さない人々は
月のひかりに照らされて
輪廻の数珠を繋いで哀しみを
忘却しながら
果て無い大地を
只 無心に這ってゆく
雲間から顔を出す白い月が
今夜も地上に独り這う蚯蚓を
母の面影で
見守っている