猫が顔を洗ういくつかの事情
角田寿星


夢のなかで草原を走りまわってきた
飛び乗った駐輪場の屋根が思ったより熱かった

スーパーの裏口で搬入のおっさんとの
ちょっとしたバトルに勝利を収めてきた
玄関のペットボトルのむこうに
見知らぬ猫の顔を念入りに確認してきた

鼻先についた朝露の冷気が心地よかった
町内のパトロール中 バイクが道に飛び出してきた

草野球の助っ人でホームランをかっ飛ばしてきた
歩道橋をのぼる婆さんの荷物を持ってあげた

道に迷った子どもと大人をまとめて交番に届けてきた
自殺しそうな女の子の傍で夜通し寝るの番をしてきた

不作にあえぐ稲穂の群れを
あきらめんな と励ましてきた
世界の経済状況を分析して 今が買いですよ
さるトップにアドバイスしてきた

内戦中の国に赴き生きるべき道を諭してきた
独裁者を正座させて何やっとんじゃと一喝してきた

と まあ わたくしたちの毛繕いには
こんな理由があるのです
地球の運営もなかなか大変です
あしたの天気ですか? 知りません

ああ よく寝ました
さてもうひと眠りしようかな

では


自由詩 猫が顔を洗ういくつかの事情 Copyright 角田寿星 2009-01-12 22:40:49
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