握る
池中茉莉花

おかあさんの ブラウスを 握る
おかあさんの めがねを  握る
握る
おとうさんの 鼻を 握る
おとうさんの 指を 握る
握る

がらがらを 握りそこねた君は
まだ きかない手を 小刻みに振って
なんとか 握ろうとしつづける
目を しっかり見開いて
身体全体を わなわな震わせて
息を はっはっ切らして


握れ
手当たりしだい 
かたちあるものを
かたちないものを
握れ

それでも
握れなくて
うつむくときが あるだろう

そのときは 振り向いてごらん
君の視線の向こうには
おかあさんがいるから おとうさんがいるから

おかあさん と おとうさんは
ひとつだけ 
うん と
うなずくだろう

気が済むまで 振り向いたら
また 握ればいい
なにも 怖くは ないから

さあ
握るんだ


自由詩 握る Copyright 池中茉莉花 2009-01-12 22:21:01
notebook Home 戻る