六角の箱庭
木屋 亞万

小さいながら我が家の庭には
大きな松の木が植えられていた
初夏の頃には松ぼっくりをつけるその木は
祖父によるとヒマラヤスギという種類だそうで
松ぼっくりのできる杉ということが
当時の私にはとても魅力的に感じられた
狭い庭をでかい顔して占拠している様子を
毎朝学校に行く前に見上げていたのを覚えている

朝は爽やかで頼もしいシーダ(我が家ではその木をそう呼んでいた)も
夜になるとおどろおどろしい様子で
風が吹くたびにゴオゴオと音を轟かせた
幼い私は、夜の門番を恐れて夜更かしをせず
良い子として日々を過ごすことができた

クリスマスにはシーダに電飾をつけ
大きなツリーとして夜の闇を照らした
どんなに寒い夜でもシーダを見ると温かい気持ちになれた
(それでもゴオゴオと怖い音はしていたけれど)
幼少期の思い出はいつもシーダが側にいた

私が小学校を卒業する半年くらい前
大きな台風が私の住む地域を直撃した
翌朝起きるとシーダは風に倒れていて
家の前の小さな道を塞いでいた
すぐにシーダは切られて処分されてしまった

人生最初の家族の死が庭の木だといえば
何も知らない人たちは笑うだろうが
私にとってシーダは家族であり、憧れの存在だった
何をすることもできず、ただ泣いている私に
祖父は一本の鉛筆をくれた
「シーダはね。この1本の鉛筆になったんだ」

祖父は倒れたシーダの一部を切り
その木材で小さなシーダを彫った
底の部分に穴を作り、鉛筆の後ろの消しゴムの部分に
指人形のように差し込んだ
「小さなシーダもやっぱり小さな庭に住むんだね」と
小さな鉛筆の庭を見ながら私は笑った



今でも我が家の庭には
シーダの切り株が大切に残されている
そしてシーダはデスクの隅で
六角形の箱庭から私のことを
ずっと見守ってくれている


自由詩 六角の箱庭 Copyright 木屋 亞万 2009-01-09 01:03:02
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