消しゴムを忘れた日の歌
千月 話子

コロンと鳴った 耳の下の方で聞いた
なんで気が付かなかったんだろう
ハネた髪の毛が鏡に映ったりして
食パンの焼ける匂いを嗅いだりして
振り向かなかった 振り向かなかったんだ


行ってきます 今日は新学期
青い空に飛行機雲 長く伸びて
ランドセルがカタカタ鳴って
小気味良いのでタンタン跳ねた


ポチが鳴いて
ミーがあくびして
妹が手を振って
スズメがトントン歩いて
向日葵がこっち向いて
お巡りさんだ笑ってた


僕はお尻を突き出して
変なポーズでご挨拶
本棚にギャグマンガ
子供の手の届かない所
こっそり見つけた
いたいけな大人達
ご機嫌な子供達


学校で席替えした
胸の奥の方がザワザワして
窓際の一番後ろの席
お隣にあやかちゃん
心臓が飛び出してスキップしそう


先生が言った 算数のテストです
一斉に机がガタガタ鳴った
高い声が教室をグルグル回った
再生紙の答案用紙がパサパサいって
皆の筆箱から良い匂いがした


先生 先生!
僕のかっこいい戦隊の筆箱に
大切なメンバーが足りません
地球の環境を守ってる
戦隊グリーンはいったい何処に
ペパーミントの香りも消えて


耳たぶが熱くなって
鼻の奥がツンとした
助けて!筆箱の戦隊レッド
僕は心の中で叫んでた


目の端からピンクの可愛い四角い消しゴム
微かに苺パフェの匂いがした
これあげる とあやかちゃん
学校一の優しい子
君は僕の戦隊ピンク
ぎゅっとしてチュっとしたいけど
うんと頷いた 下向いたままで


50+50=100
答えを書いた途端
僕の答案用紙から数字が飛んで行った
100%の気持ちが
黒板にぶつかって
もうすぐ君の耳元へ到着するよ


笑ったんだ 何故だか君が
くすぐったそうに ふふふ
ピンクの消しゴム握り締めて
100点の答案用紙 明日見せるよ
きっと そっと


帰り道 お巡りさんが手を振って
向日葵がお辞儀して
スズメが電線に並んでて
妹が走って来て
ミーがあくびして
ポチがしっぽ振って
足元でコロンと鳴った


ペパーミント色の消しゴム
机の中に一緒に並べたピンク色
あの子と一緒に爽やかな世界
明日 僕の大切な
バナナクレープの匂いのする消しゴムを
プレゼントするよ
僕のお腹がキューと鳴った


戦隊ヒーロー達が
今日も悪者を退治する
夢の中で僕はレッド君はピンク
主題歌がかっこいいぜ







自由詩 消しゴムを忘れた日の歌 Copyright 千月 話子 2009-01-09 00:13:22
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