冬騒
A道化




音楽と光が止み
(ひそ、ひそ、)
雪など降らぬ、ましてや星など降らぬ
最初から諦めて、無数の
ただ、咳が
ただ、冬が
最初から諦めて崩れ落ちた白い灰の気配で
見知らぬマフラーの、見知らぬコートの
表面をかすめ
かすれ


(ひそ、ひそ、)
が、転落してゆく


そしてアスファルトは
散らかっている
足音は誰にも把握されぬまま
ばらまかれるばかり
さらなる足音がそれを蹴散らす
ただひとつ、を、探す視線のスピードから
熱と水分が失われてゆく
(ひそ、ひそ、) へと澄ました耳に
ただ、咳、
ただ、冬、


あ、
冬騒、


この、耳の
物欲しげに開ききったまま凍えそうな巻貝に満ちて
ただ耳鳴りを引き起こしてゆく冬騒が、(ひそ、ひそ、
ひそ、ひそ、ひそ、ひそ、) 冬騒が、渦巻きの奥深く
空耳を耳打ちしてくれる、(ほら、) ひそ、ひそ、


(ああ、ほら、)
ひそ、ひそ、


2009.1.1


自由詩 冬騒 Copyright A道化 2009-01-01 18:18:22
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