( 六甲山から夜景を・・・ ) 
服部 剛

山の向こうに広がる街が 
何処までも小さく
遠のいてゆきます 

六甲山の只中を上る
ロープウェイは吊るされて 
私は山間の上に 
宙に浮いたまま立つように 

地上で仰いでいた杉達が 
足元から 
僕等を呼びかけるように 
肩を組んで身を揺らしています  





ケーブルカーはがたがたと 
陽も暮れかけた六甲山から 
地上の星が灯り始めた神戸の街へ 
急坂の速度を抑えるように 
がたがた下ってゆきました 

薄明かりの車内では
最前列に父と少年 
通路越しの隣に母と少女 

後ろの席で僕は 
何冊もの詩集を詰めこんだ 
大きいビニール袋を 
愛しいひとのように
抱いていた

強く抱けば 
猫になり 
するりと逃げてしまうので 
僕は少し、力を抜いた。 

僕とビニール袋の
すき間に 
猫の顔をした愛しいひとの幻が 
頭を潜りこませる 
一瞬の 
夢を見ていた 

六甲山の山間から見下ろす  
神戸の夜に
幾千もの地上の星が灯り始める  

硝子張りの天井には 
下弦の月が 
夜空に 
細い爪痕を残す 

消えること無い金星ヴィーナスは 
いつまでも
力強く、光る。 

ケーブルカーはがたがたと 
夜も更けた六甲山から 
地上の星が煌く神戸の街へ 
揺るぎ無い、孤独な愛の碇を下ろすように 
暗闇のトンネルを何処までも 
がたがた下ってゆきました 








自由詩 ( 六甲山から夜景を・・・ )  Copyright 服部 剛 2008-12-30 19:44:59
notebook Home 戻る