花は、
NARUKO
宇宙まで手が届きそうに
よく晴れ上がった日曜
走る車には、
運転席と助手席にふたりだけ
高い青に向かって
咲き乱れる桜を見に行く
ふたりだけの家族
花は、目的ではないんだよ
と
あなたは言う
花は、実がなるための手段なんだ
と
そんなあなたの肩の上
うす桃色の花びらは
風にゆれながら
かすかに笑う
それから、また毎日をかさねてる
満開だった花たちは、一枚も残っていない
青青と茂る葉っぱで覆われる桜並木
振り返る人も
仰ぎ見る人もなく
やっぱり、高い青に向かって
枝葉は、揺れながら腕を一杯に広げているのに
花は、目的ではないんだよ
と
あなたの声がする
花は、実がなるための手段なんだ
と
そんなあなたの声を聞きながら
わたしは、下腹部に手をあてる
宿せることの出来なかった
蕾をそっと暖める
そのうち、空を目指しながらのばしていた枝葉も
少しずつ冷えてゆく地球の体温に耐えられず
力尽きて、地面へと還ってゆくのだけれど
星空は暖かく抱きしめてくれるから
木枯らしをゆりかごにしながら
そっと眠ってゆくんだ
花は、目的ではないんだ
と
わたしは相槌を打つ
花は、実がなるための手段なんだね
と、
わたしは、
あなたのてのひらをまさぐって
ぎゅっと、にぎりしめて
あなたの歩幅にあわせて
歩いてゆく
また暖かくなって
宇宙まで手が届きそうに晴れ上がったら
桜
見にゆこう