最果て
山中 烏流







 
 
 
 
/億千と降る視線の海の中で、彼は息をしている/沈んだ髪の毛に吸われる水量は、きっと涙よりも多かった/十字を切る手首。首から泳ぐキリストには目もくれない/なまくらの精神で培った知識など命ひとつ分にもならない/膝を抱えてみると、それは骨だけだった/ユグドラシルの葉と蛇の囁き/頷いた首をはねたのは、間違い無く彼自身の手だ/最期の力ですべきこと、それは瞬きである/木だと思っていた物は、目を凝らして見ると無数の腕に変わった/彼は呟く/ぶつ切りの思考を制御せよ/。/
 
 
 
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虚空に跪くのは少女
 
睫毛が羽ばたくほどの高みで
紫色の黎明を
ただ、ひたすらに
繰り返している
 
 
指先が指揮をとり
小鳥と鈴虫がセレナーデ
少女のか細い声は
いつも、それにかき消されてしまう
 
 
眼下に広がる海で沈むのは
 
私、だった筈
だと。
 
 
 
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箱庭/誰も知らない、
胎内とよく似たそこは
彼/少女
を囲いながら
口元を歪めている
 
(星屑は金平糖
(雲は綿飴
 
呟いたときの吐息は
風になるのだという
 
 
平和の代償は、いつも
気付かないうちに
捧げられてしまう、
 
 
 
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/小指から、甘く痺れ/目線の先に柔らかくたなびく髪が見えた/少女が捧げたものは、小さな果実ひとつだったのに/瞳孔が押し広げられる感覚/彼の鼓動はあまりにも小さく、高鳴ることを知らないままだ/蛇の声は止まない/ユグドラシルの根は、無数の足なのかもしれない/顔より他が見当たらない、もしかすると溶けてしまったのだろうか/唇から生み出せるものは、吐息と唾液と言葉くらいだ/虚空を掴もうとする/かしゃり。乾いた音だけが響いた/少女は泣いているのか、それとも/見下されている感覚/今、笑っただろうか/億千と降る視線の海は、ただ痛みだけをもたらして/キリストは、首で泳ぎながら消えてしまった/少女が呟いた気がする/ぶつ切りの思考を制御せよ/。/
 
 
 
 











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自由詩 最果て Copyright 山中 烏流 2008-12-30 01:05:51
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